IDF-4000(キャノン)の詳細レビュー
関山 健治(沖縄大学)
sekiyama@okinawa-u.ac.jp
(ご注意)
このガイドを含め,本ウェブサイト内のすべての内容に関する著作権は,メーカーさんから転載を許諾していただいた写真等,特記あるものを除き,関山 健治が保持しています。著作権の侵害となる一切の行為を固くお断りします。
ご利用にあたっては,トップページに記載のガイドラインの内容を遵守してください。
★それぞれの項目について,長所は緑色,短所は赤色で表しています。
★外観
シルバーと淡いブルーのメタリック仕上げです。デザインに関しては個人差があるので何とも言えませんが,私としては数ある電子辞書の中でもトップクラスのデザインであると思います。他機種のように,プラスチックの筐体にメタリックの塗装をしたものではなく,もともと金属製の筐体なので,使っているうちに塗装が剥げて汚くなったりすることもないのでは。
★寸法
とにかく薄いです。14.0mmという薄さ(もちろん,フタを閉じた状態で!)は,フルコンテンツの電子辞書の中では最も薄いです(2001年3月現在)。こんなに薄くて大丈夫か,という気がしますが,外観のところでもふれたように,筐体が金属製なので,思ったより頑丈そうです。重さ(192.5グラム)は最近の電子辞書としてはそれほど軽いとは言えません(金属を使っているので致し方ないでしょう)が,それでも,XDシリーズ(カシオ)やSRシリーズ(セイコー)のような200グラムをこす機種にくらべれば明らかに軽く感じます。
★収録辞書
広辞苑(第5版,約2600の図版付き),ジーニアス英和辞典,ジーニアス和英辞典,漢字源(学研の漢和辞典),(英語)類語辞典(大修館オリジナル)のフルテキストを収録しています。最近のフルコンテンツ電子辞書としては標準的な内容です。カタカナ語辞典が入っていないのは残念ですが,それよりも,広辞苑の図版が収録されている(これもIC辞書では業界初)のが驚きです。2階調のモノクロなので,電子ブックプレーヤーのような綺麗さは望めませんが,たとえ2階調でも語義の説明ではわかりにくい物が図で確認できるのは便利です。
PW-8100/8000(シャープ)は,英語の類語辞典をカットし,漢和辞典を独自編集のものに簡略化したかわりに,カタカナ語辞典をはじめ,故事成語,ことわざ辞典などが収録されています。日本語の辞書を主に使う人は,PWシリーズのほうが便利かもしれませんが,英語を学んでいる人は,類語辞典のあるIDF-4000のほうが重宝します。IDF-4000やXDシリーズ(カシオ)に収録されている類語辞典は,ジーニアス和英辞典をひっくり返して作成したようなもので,書籍版は出ていませんが,これが意外と使えます。とくに,セイコーの電子辞書に伝統的に収録されているRoget IIのthesaurusが使い物にならないと思っている人は,ぜひ使ってみてください。もちろん,SR-8000に収録されているネイティブ向けのthesaurusとは分量の面では及びませんが,平均的な日本人にとっては大修館オリジナルのもののほうが使いやすいようです(私のような「レファレンスオタク」にとっては,SR-8000のthesaurusはとてもおもしろいのですが)。
あと,これはIDF-4000だけの問題ではないのですが,収録辞書の種類も抜本的に見直す必要があるのではないでしょうか。たとえば,国語辞典は広辞苑が本当にベストなのか? という問題があります。フルコンテンツのIC辞書は猫も杓子も広辞苑を載せていますが,広辞苑は,現代語と古語が用法ラベル等で区分することなく掲載されているので,国語学や国文学の研究者ならともかく,一般の日本人,まして,外国人で日本語を学んでいる人にとっては,非常に使いにくい辞書です。むしろ,日本語大辞典(講談社)や大辞林(三省堂)といった,広辞苑と同規模の辞書で最近出版されたもののほうが,現代語に関しては詳しいでしょうし,IDF-3000に載せているような,百科的語彙をかなりカットした5, 6万語レベルの国語辞典を収録し,百科語彙はマイペディアのような小型百科事典を収録することで補うという手もあります。英和・和英にしても,両方ともジーニアスを載せるというのが最近の風潮ですが,英和はともかく,和英はプログレッシブのような,語数の多いもののほうが日本人にとっては役立つと思います。そもそも,ジーニアス和英は,和英の中にジーニアス英和の内容を組み込んだ編集になっているので,(ジャンプ機能のない)冊子体辞書としては役立ちますが,和英から英和に簡単にジャンプできる電子辞書では,ジーニアス和英のハイブリッド形式の内容はそれほどありがたみはありません。電子辞書の場合,ハイブリッド形式にして語数が抑制されるぐらいなら,語数の多い和英を載せて,必要に応じて英和にジャンプさせたほうが使い道が広いと思います。私個人としては,シャープのフルコンテンツ電子辞書の第1号機であるPW-5000のように,ジーニアス英和とプログレッシブ和英のカップリングが気に入っています。
★キーボード
本体が薄くなったためか,キータッチがかなり浅くなりました。しかし,クリック感があるので,文字が飛んだりすることもなく,慣れると快適です。プラスチックのキーなので,「べたべた」「ふにゃふにゃ」することがなく,年中快適に使えます。
キャノンの電子辞書は,数ある電子辞書の中でもとても使い勝手の良いキーボード配列になっていると思います。訳キーとジャンプキーが隣接していたり,「スペルチェックモード」に切り替えなくても,「スペル」キーを(「訳」キーのかわりに)押すだけでスペルチェックをしてくれるということ,上下の矢印キーで行スクロール,左右の矢印キーで画面スクロールというキーアサインになっていることなどはキャノンの電子辞書独自のものです。とくに,行スクロールと画面スクロールのキーが隣り合っているのは非常に使いやすいのですが,一方で,キーボードにはこのアサインが特に書いていないので,初めて使う人はとまどうかもしれません。
★画面
他機種に比べて画面解像度は小さく,横はDD-ICシリーズとほぼ同じで,縦が若干長いという感じです。従来機(IDF-3000)にくらべれば,IDF-4000はフォントサイズを小さくできることもあり,表示される情報量がはるかに多いのですが,PWシリーズ(シャープ)やXDシリーズ(カシオ)の大画面液晶に慣れている人にとってはストレスがたまるかもしれません。PWシリーズのように,語義を1列ずつ簡略化して表示する早見機能があればよかったと思います。
例文や解説は,本文と一緒に出てくるIDF-3000と異なり,訳キーを押すごとに,表示,非表示を切り替えられるようになりました。他機種と違い,訳キーと例文,解説表示が同じキーであるということ(これは使いやすいです)や,例文と訳語を同時に表示できること,キー一つで例文,解説の表示,非表示をスイッチできるのは大きな特徴です。ただ,例文(解説)マークの前後で改行されてしまうので,基本語など,例文の多い語はマーク1つごとに1行ずつを占領し,見通しが悪くなってしまいます。他機種のように,語義記述の末尾に(改行しないで)マークを付加した方がいいでしょう。
IDF-3000では,国語,漢字源の縦書き・横書きの切り替えを設定画面で変更することができましたが,4000では縦書き表示固定になりました。お客様相談センターにきいたら,「縦書きのほうが見やすいという声が多かったので」とのことですが,せっかく変更できる仕様だったのに,「見やすい」からといって縦書きに固定してしまうのはいかがなものでしょうか。縦書きと横書きのどちらが見やすいかというのは個人によっても違います。横書き版の国語辞典が新たに発売されたり,イミダスが類書の中でも唯一横書きに変更して好評を得ていることからしても,横書きのほうががいいという人が相当数いるということを物語っています。仕様上不可能であるのならまだしも,IDF-3000では横書きに変更できたのに,新機種の4000ではできなくなったというのは,ちょっと疑問を感じます。
電子辞書の場合,縦書きと横書きの違いというのは,単に見やすいかどうかといったレベルの問題ではありません。一番重要なことは,テキストの表示方向が違えば,キーアサインも違ってくるということです。たとえば,IDFシリーズでは,縦書き画面では,左右の矢印キーが行スクロール,上下で画面スクロールになりますが,横書きだと,左右と上下の機能が逆になり,行スクロールは上下の矢印キーで行います。私のように,日本語系の辞書と英語系の辞書を入れ替わり立ち替わり使う人は,キーアサインがその都度異なってしまうと使いにくいので,IDF-3000では国語も横書きで使っていましたが,4000ではそれができなくなり,日本語系辞書と英語系辞書を引き分ける都度,頭の中にしみこんだキーアサインをスイッチしないといけないのです。これは非常にストレスがたまるので,何とかしてほしいものです。技術的に不可能なことをねだっているわけではなく,IDF-3000では実現されていた機能を復活させてほしいということですので,次機種開発の際はぜひ考慮していただければと思います>メーカーさん
★電源
単4電池2本で約100時間使えます。電池が100時間以上持つ機種は,使い方にもよりますが,かなりハードに使っていても数ヶ月は持ちます。それはいいのですが,私の経験では,電池が長く持つ機種であればあるほど,自然放電の影響が顕著になり,電池交換警告が出ていないのに,電源を入れるといきなり初期状態に戻ったりすることがあります。電池交換警告は,電子辞書を使っていくうちに徐々に電圧が下がっていった場合には,電源が落ちる前に余裕を持って警告が出てくれるのでいいのですが,電源を入れたとたんに瞬間的に電圧が急降下した場合は,警告なしで電源が落ち,初期状態になってしまいます。このようなことは,電池交換してから長く時間がたっている場合によく見られる現象なので,とくに電池寿命の長い機種でよくあります(私はカシオのXDシリーズで経験しました)。履歴や設定が消えるぐらいならいいのですが,IDFシリーズの場合,大容量の単語帳機能がついているので,不意に初期化されてしまうとダメージも大きいのではないでしょうか。IDFシリーズはまだ買ってから間もないので,実際にこのような「不意の初期化」が起こるかどうかは分からないのですが,注意しておきたいと思います。
★基本検索機能・スペルチェック機能
電子辞書では常識となったインクリメントサーチ(キーを押すごとに候補が絞り込まれる)ができるので,使いやすいです。細かな点ですが,「広辞苑」キーを押して検索すれば慣用句も一緒に検索されるのもIDF-4000のメリットでしょう。PWシリーズ(シャープ)は慣用句検索に切り替えないといけません。
パンフレットやスペック表には現れない点ですが,IDF-3000/4000はスペルチェックの操作が他機種と異なり,非常に使い勝手が良くなっています。従来の電子辞書でスペルチェックを行う際は,まず「スペルチェックモード」に切り替えてから単語を入力しますが,IDFシリーズでは,英和モードで単語を入力した後,(「訳」キーのかわりに)「スペル」キーを押すことでスペルチェックが行われます。これだけではなぜ使い勝手がいいのか分からないと思いますが,実際に使ってみるとその差は一目瞭然です。
ふつう,ユーザは自分の入力する単語のスペルが正しいか,誤っているかを意識していません。「正しいスペルだと思って入力したが,実際には検索できなかったので,スペルチェックモードに切り替えて再入力した」ということがほとんどでしょう。つまり,単語を入力する前に,スペルが正しいか否かをユーザが判断しないといけないという他機種のような操作系だと,スペルが誤っていた場合に非常に手間がかかるのです。しかし,IDFシリーズでは,とにかく英和モードにして単語を入力し,インクリメントサーチで候補語が出てこなかったら,スペルが誤っているのですから,「訳」キーのかわりに「スペル」キーを押してやるだけでスペルチェックしてくれます。モードを切り替えてスペルを再入力するという手間が省けるわけです。以下に,この操作を他機種とIDFシリーズで比較してみます。
(他機種)
スペルの正誤を予測し,正しいと思えば英和モードのまま,自信がないor誤っていると思えばスペルチェックモードに切り替えて入力→正しいと思って英和モードで入力したのに,実際はスペルが誤っていたので検索できなかった→スペルチェックモードに切り替える→スペルを再入力する→検索される
(IDFシリーズ)
とにかく英和モードでスペルを入力→インクリメントサーチで,スペルが誤っていそうだと判断→「訳」キーのかわりに「スペル」キーを押す→検索される
上の操作の流れからも分かるように,IDFシリーズでは,ユーザが単語を入力する段階ではスペルの正誤を意識する必要がないため,スペルがあやふやな単語を引くときだけでなく,通訳の現場などで単語を素早く入力したときのタイプミスなどにも対応できる操作系になっています。現段階では,日本製の電子辞書でこのような操作系になっているものは,IDFシリーズ以外ではシャープのPWシリーズ(PWシリーズは従来のような「スペルチェックモード」に切り替える操作にも対応しています)ぐらいしかありません。
さらに欲を言えば,海外の電子辞書で見られるような,スペルの正誤を自動判断して,誤っていれば自動でスペルチェックをする操作系(Franklin社の電子辞書のような)であれば良かったのですが,これは今後の課題でしょう。
★ワイルドカード検索
最近の電子辞書にはほとんど備わっている機能ですが,仕様はメーカーごとにかなり異なります。具体的には,以下のようなcriteriaで考えられると思います。それぞれについて,現行機種で試してみたら,以下の表のようになりました。ここまで掘り下げてワイルドカード検索を分析する人はまずいないでしょうが,IDF-4000は他機種を遙かにしのいでおり,広辞苑をクロスワードパズルの解答用に使える,数少ない電子辞書の一つです(懸賞付きのパズル雑誌が多いということからしても,このことはもっとPRしてもいいと思うのですが)。この結果を見ると,現行の電子辞書の中でも機能や使い勝手で最も優れている機種の一つであるPW-8100も,ワイルドカード検索に関してはまだまだ課題が多いことが浮き彫りになります。究極的にはSCD-770のように,単語内のどこでもワイルドカードが使える仕様になるのがベストなのですが…。
1) 不明文字1文字に対応するワイルドカード (「?」)と複数文字に対応するもの(「* (〜)」)の両方が備わっているか? 2) 「?」と「*(〜)」を混在できるか?→「i??ita*on」で検索できるか? 3) ワイルドカード検索の際も,通常検索同様にインクリメントサーチができるか? 4) どちらのワイルドカードも,語頭で使うことができるか?→「?og」,「*(〜)tream」で検索できるか? 5) 英和だけでなく,和英や広辞苑などでもワイルドカードが使えるか? 6) 英和辞典における,追い込み見出しの派生語や複合語,広辞苑の慣用句もワイルドカードで検索できるか?→英和で「cream*(〜)e」(または「cream??????」)で検索すると,"cream cheese"が検索されるか? 広辞苑で,「かぜがふけば*(〜)る」(または「かぜがふけば????????」)で検索すると,「風が吹けば桶屋が儲かる」が検索されるか? 7) 複数の「*(〜)」が使えるか?→「*tream*」で検索できるか? |
IDF-4000 | PW-8100 | XD-S5000 | SR-9100 | SR-900 | DD-IC2050 | SCD-770 | |
キャノン | シャープ | カシオ | セイコー | セイコー | ソニー | Franklin | |
1) | ○ | ○ | ○ | ×(?のみ) | ×(?のみ) | ×(*のみ) | ○ |
2) | ○ | × | × | N/A | N/A | N/A | ○ |
3) | ○ | × | N/A | N/A | N/A | ○ | N/A |
4) | ○ | ×(「?」) ○(「〜」) |
×(「?」) ○(「〜」) |
○(「?」) N/A(「〜」) |
×(「?」) N/A(「〜」) |
N/A(「?」) ○(「*」) |
○ |
5) | ○ | ○ | × | ○ | × | ×(和英) ○(広辞苑) |
N/A |
6) | ○ | ○(英和) ×(広辞苑慣用句) |
×(英和) N/A(広辞苑) |
○ | ○ | ○ | ○(英英) N/A(広辞苑) |
7) | × | × | × | N/A | N/A | × | ○ |
この中でも,4), 5), 6)は,クロスワードパズルを解く上で重要な仕様です。とくに,「?」が語頭で使える(「*(〜)」は使えなくても)ということは,クロスワードの解答にワイルドカード検索が使えることの大前提となります。上の表からも分かるように,これらをクリアしているものはIDF-4000とSR-9100しかありません。
★成句検索
これも電子辞書には必ず備わっている機能ですが,驚いたのは,IDF-4000では,成句検索でもインクリメントサーチが行われるということです。単に機能を備えることは誰でもできますが,このように,仕様やカタログに現れない「こだわり」を持たせることはなかなかできません。
★ジャンプ
IDFシリーズの最大のウリは,日本語を含め,画面内のあらゆる語句にジャンプできる機能(スーパーマルチジャンプ)です。これは,数ある電子辞書の中でもIDF-3000/4000のみにしか備わっていません。たとえば,広辞苑で「猫」を引くと,語義の中に「食肉類」という記述がありますが,この「食肉類」の意味を知りたい場合,他の機種では「しょくにくるい」とタイプして検索するしか方法がありませんでした。しかし,IDFシリーズでは,「ジャンプ」キーを押した後,「食肉類」を反転させて「訳」キーを押すだけで「食肉類」の項目にジャンプしてくれます。広辞苑に限らず,和英辞典や漢字源へのジャンプもできます。この機能のおかげで,IDF-4000では,検索して画面に表示されている語句であれば,どのような語句であってもジャンプをすることができます。とくに,外国人で日本語を学んでいる人は(私たちが英英辞典を使うときのように)引いた単語の説明に使われている日本語が理解できない,ということがよくあると思いますが,このような場合にはIDFシリーズのジャンプ機能はとても重宝します。「キャノンの辞書は外国人受けする」とよく言われますが,スーパーマルチジャンプ機能が備わっていることもその理由の一つでしょう。
ジャンプ機能で唯一不満なのは,日本語の単語へジャンプする際,複数の辞書に記載されている場合は,「訳」キーを押すとジャンプ先の辞書(広辞苑・和英・漢字源)を選択することができるのに,英単語の場合は,「訳」キーを押すと,たとえ類語辞典に記載されていても,自動的に英和にジャンプされてしまうことです(「訳」キーのかわりに「類語辞典」を押さないといけません)。これは,類語辞典が入っていなかったIDF-3000の仕様を引き継いでいるのかもしれませんが,改善が望まれます。
★暗記帳
広辞苑,英和,和英,漢字のそれぞれの辞書で100語ずつ記憶できます。この容量はかなり大きく,十分すぎるほどです。IDF-3000は単語帳画面からのジャンプができませんでしたが,4000では改善されました。
★履歴
英和・和英・複数辞書検索・英和成句検索・広辞苑慣用句・広辞苑イラスト検索・類語 のそれぞれで30語ずつ履歴が残ります。個人的には,30語の履歴が残れば十分な量であると思います。ただ,履歴で残るのは,キー入力して検索した語のみで,ジャンプした語は残りません。最初にキー入力して引いた語よりも,そこからジャンプした単語のほうが後々になって再検索する必要があったりすることは多いので,改善が望まれます。もっとも,ジャンプした語も履歴に残るようにすると,30語のキャパシティーは少なすぎると思いますが。
もう一つ気になったのは,IDF-3000の頃からそうなのですが,複数辞書検索で検索した語は,「複数検索の履歴」として残り,和英や広辞苑,漢字源の履歴には入らないということです。ですから,たとえば同じ広辞苑を検索する場合でも,「広辞苑」キーを押して単独検索した場合は広辞苑の履歴に入り,「複数検索」を押して,候補から広辞苑のエントリーを選んで検索した場合は広辞苑の履歴ではなく,複数検索の履歴に残ってしまいます。これは何とかしてほしいと思います。複数検索の履歴をなくして,複数検索で引いた語も,引いた辞書の履歴に残すようにした方がいいような気がします。
★総括
「10年一昔」と言われますが,フルコンテンツタイプIC辞書の第1号機(セイコーTR-700)が登場してから,今年(2001年)でちょうど10年になります。この10年で,電子辞書はどれほど進化を遂げたのでしょうか。以下に,フルコンテンツ第1号機(TR-700)と,現行機種でほぼTR-700と同等の機能を持つSR-750(いずれもセイコーインスツルメンツ)を比較してみました。
TR-700 | SR-750 | |
サイズ | 180*120*28 | 118*75*19 |
重さ | 260g(電池含まず) | 145g(電池含む) |
画面解像度 (漢字表示文字数) |
255*64 (64文字) |
239*80 (114文字) |
収録辞書 | 新英和中辞典(第5版) 新和英中辞典(第3版) 類語辞典(Roget's II) |
新英和中辞典(第6版) 新和英中辞典(第4版) 類語辞典(Roget's II) デイリーコンサイス国語辞典 |
電池寿命 | 220時間 | 40時間 |
価格 | 48,000円 | 20,000円 |
付加機能 | スペルチェック ワイルドカード検索 パス(英日各14語) |
スペルチェック ワイルドカード検索 成句検索 ジャンプ パス(英日各26語) |
この表からも明らかなように,サイズや重さ,画面解像度,価格などは10年で大きく進歩しました。液晶画面が大きくなっているのに重さは半分以下になり,価格も飛躍的に下がりました。やはり10年の差は大きい,といえるかもしれません。しかし,収録辞書や付加機能に関しては,10年前の機種でも,現行機種でも大して変わりません。それどころか,電池寿命などは,軽くすることを優先して,電池の本数を減らした(単4電池4本→2本)せいか,10年前の機種の半分以下になってしまっています。そして,このようなスペック表に現れない細かな使い勝手やキーボードの配列に関しては,セイコーの機種に限らず,多くの機種が先行機種に「右に倣え」で,10年という年月に見合う改良がほとんどなされていないといっても過言ではありません。
IDF-4000が発表されたとき,ニュースリリースでスペックを見た私は,「なんだ,結局他機種の焼き直しではないか」と短絡的に思いました。ジーニアスの英和,和英に広辞苑を載せたぐらいの電子辞書なら,他社からもたくさん出ているからです。しかし,3月末に現物をさわってみて,そんな考えが全く誤っていたことに気づきました。カタログに出ないところでの細かな使い勝手が向上し,とても気持ちよく使えるのです。IDF-4000を一言で言い表すならば,使えば使うほどその良さが分かる電子辞書,という感じでしょうか。あくまでも推測なのですが,もしかしたら,IDF-4000の開発チームの中で,自社,他社を問わず複数の電子辞書を常用している「電子辞書ファン」がいらっしゃるのかもしれません。私が実際に電子辞書をしょっちゅう使っていて感じる不満が(全部ではありませんが)IDF-4000には驚くほど反映されているからです。現時点では,英英が不要で,日本語系辞書は広辞苑と漢字辞典だけでいい,という人にはIDF-4000を文句なくおすすめします。日本語を辞書で引くことが多い人は,PW-8100/8000(シャープ)と比較検討する必要があるでしょう。
IDF-4000の登場は,従来の「より軽く,小さく,安く」に躍起になっていたIC電子辞書の開発に一石を投ずるものであるといえます。今後は,ユーザの実態調査やユーザに電子辞書を操作させる実験などを行い,より使い勝手のよい電子辞書を開発することが求められてくると思います。