関山 健治(沖縄大学)
sekiyama@okinawa-u.ac.jp
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★ <収録辞書>プログレッシブ英和(第3版)と和英(第2版)の本文フルテキストを収録しています。図版,表,その他の付録はカットされています。冊子体 のプログレッシブ和英にある,世界の人名,地名,オノマトペなどの一覧もカットされています(ちなみにシャープのPW-5000にはこれらも収録)。通常の英文読解,英文作成には十分な語数ですが,欲を言えば,人名,地名,オノマトペといった付録は,カットしないで本文に組みこんでほしかったです。
★ <大きさ>とにかく小さいです。名刺入れサイズという宣伝文句は決して誇張ではありません。フルコンテンツの電子辞書では疑いなく史上最小,最軽量です。それどころか,数千円で売っている,訳語を並べただけのIC辞書の多くよりも小さいというのは驚異的でさえあります。電子辞書を購入する人の大半は,サイズ,重さを重視することからしても,今後の電子辞書に大きな影響を及ぼすことは間違いないでしょう。シャツの胸ポケットにも入る,とカタログには書いてありますが,思ったよりも厚さがある(変なたとえですが,ポストイット一束(100枚)よりも厚いです)ので,カッターシャツではちょっと厳しいですね(^^;; ポロシャツのポケットなら悠々です。
★ <重さ>カタログでは120グラム(電池含む)ですが,思ったより重いです。大きさがあまりにも小さいから余計にそう感じるかもしれません。しかし,200グラムをこえる従来の電子辞書と持ち比べてみれば,明らかに軽いことが分かります。
★ <キー>オーディオなどのリモコンと同じようなタッチですが,とくに,最下行のキー(決定(訳),ページ送りのキーなど)はクリック感がなく,ふにゃふにゃした感じがして,強度も弱そうです(印象ですが)。また,本体の厚さを抑えるためか,従来のIC辞書のキーほど出っ張りがなく,ほとんどフラットであるというのは評価の分かれるところでしょう。当然のことながら,1つ1つのキーはかなり小さく(アルファベットキーは円形で,直径1センチぐらい?),キーの間隔も詰まっているので,指の大きい人は押しにくいです。もっとも,ワープロなどと違い,単語を入力するだけですから,慣れの問題とも言えます。
★ <画面>このサイズで20文字×8行表示のバックライトつきワイド画面を採用したことは驚嘆に値します。液晶も見やすく,申し分ありません。欲を言えば,データディスクマンのように文字サイズ切り替え機能をつけ,平仮名,片仮名は半角で表示されるようにしてほしかったですが。バックライトは携帯電話の画面についているような緑色のもので,あまり明るくありません。それでも,真っ暗な場所で辞書をひくときは非常に重宝します。逆に言えば,電子ブックプレーヤーのバックライト(白)ほどまぶしくないので,映画館で上映中にちょこちょこと辞書をひいても,周囲に迷惑になりません(^^;;
★ <電源>ふたを開けたら電源が入り,閉じると電源が切れるという電子ブックプレーヤーでおなじみの方式です。電源キーもありますが,レジューム機能(電源が切れる直前の状態を保持する)が完璧なので,ふだんはふたの開閉だけで用が足ります。ふたを開ければ自動的に電源が入り,閉じると切れるというのは,言いかえれば,「電源のオンオフ」ということを意識する必要がないということです。たったこれだけのことですが,冊子体の辞書と電子辞書のギャップを埋めるために大きな貢献をしている,といっても過言ではありません。
ちなみに,電池は単4が2本で,約80時間使え(バックライトオフの場合),標準的です。
★ <基本検索>電子ブックプレーヤーの血をひいていて,前方一致での絞り込み(コンピュータ業界では,インクリメントサーチと呼ばれているもの)が基本の検索機能となっています。そのため,スペルを最後まで入れなくても検索できるので便利です。今までのIC辞書にこの機能がついていなかったのが不思議なぐらいです。リアルタイムで絞り込んでいくので,表示が若干もたつく感じがしますが,キー入力はバッファーに保存されるようので,速く打っても文字が飛んでしまうことはほとんどありません。そのかわり,ページのスクロールなどでキーを押しつづけていると,バッファーに入力が蓄積される影響で,キーを離してもスクロールされてしまうという副作用があります。
★ <ワイルドカード検索>スペルの一部分が不明なときに用いるワイルドカード検索ですが,DD-IC100では「*」のみ(n文字(n>0)の不明文字に対応)が備わっています(1文字の不明文字に対応する「?」はありません)。ワイルドカードは語頭にも使えるため,語尾からの検索(後方一致)もできます。ただし,ワイルドカードは1単語の中で1つしか使えません。そのため,b*fi*tionなどという検索はできません。また,通常の解釈では「*」はn>=0,すなわち,不明文字がゼロの場合も使えますが,DD-IC100ではn>0,すなわち,*を置いた箇所には,必ず1文字以上の不明文字がないといけません。具体的に言うと,*phoneで検索すると,grammophone, allophoneなどはヒットしますが,phoneは出てきません。パソコンなどでワイルドカードの「*」に慣れている人は,注意が必要です。なお,ワイルドカード検索はかなり時間がかかります。待ちきれないというほどではないのですが。
★ <成句検索>IC辞書ではあたりまえになっている成句検索ですが,DD-IC100にも備わっています。DD-IC100では,検索単語の語末に「−」をつけると,その単語を成句検索のキーワードと解釈されます。従来機種のように,「成句検索」などというキーを押してモードを切りかえる必要がないので,非常にスムーズです。もちろん,複数の検索単語をいれることもできます。たとえば,in-front-と入れれば,inとfrontの両方が含まれている成句(in front ofなど)が検索できます。ただし,in-frontと入れると,in-と同様に解釈されてしまいます。すなわち,成句検索をする場合は,キーワードすべての語末に「−」をつけないといけないのです。これは,説明書でもあまりふれられていないので,戸惑う人も出てくるでしょう。成句検索の検索速度は,ワイルドカード検索と同じく,お世辞にも速いとは言えません。ワイルドカード検索以上によく使う機能なのですから,改善が望まれます。
★ <検索結果の表示>これも電子ブックプレーヤーの特徴を受け継いでいて,冊子体の辞書のように,語義,例文,文法解説などがいっぺんに出てきます。従来のIC辞書のように,まず語義だけ表示し,必要に応じてキー操作で例文,解説画面に切り替わるという形式ではありません。これには賛否両論あるでしょうが,私としては,まず語義を表示し,必要な語義の例文をキー操作で表示させるという2段構えのほうが,多くの語義を一覧できるという点で,画面の小さいIC辞書にはぴったりだと思います。DD-IC100の場合,多義語などでは,延々とスクロールしないといけないので,不要な語義の例文や解説も見せられることになり,かなり疲れます。その一方で,検索単語の前後にある単語を調べる際には,従来のIC辞書のように検索語をいれなおす必要がなく,スクロールさせるだけなので,便利であるとも言えますが。あと,好みの問題もあると思いますが,冊子体の「プログレッシブ」と同様に,語義の番号ごとに改行されないので,多義語は非常にみにくいです。一方で,改行が少ないぶん,表示画面が有効に使え,表示される情報量が多いというメリットもあります。
★ <ジャンプ>語義の中に出てきた単語をひきなおす機能がジャンプ機能ですが,DD-IC100にもあります。英和同士,和英から英和へのジャンプが20単語まで可能です(従来のIC辞書の多くは10回)。20階層までジャンプする必要はほとんどありませんが,多いにこしたことはありません。ただ,従来のIC辞書と異なり,ジャンプする単語を選択する際,カーソルが左右のみで,上下に移動できないというのは問題です。表示画面の下のほうにある単語にジャンプしたい場合は,選択するのに何回もカーソルキーを押さないといけません。
★ <暗記帳>辞書でひいた単語をユーザの指示でメモリに記憶する機能です。後述の履歴機能は,ひいた単語を自動的に記憶する機能ですが,暗記帳は,ユーザが登録する,しないを選べるのが特徴です。主に受験生の単語学習にターゲットをあてた機能といえますが,一般のユーザも,英文を読んでいて気になった単語をメモがわりに登録できるので,重宝します。最大100語まで記憶でき,それ以上記憶させようとすると,最も古い登録語から消されていきます。もちろん,ユーザが指示した語を削除することも可能です。登録されている語は,キー一つで英和(和英)辞典の当該語のエントリーを参照することができます。ちなみに,暗記帳機能と履歴機能が両方ついている機種は,フルコンテンツのIC辞書ではDD-IC100のみのはずです。非常に便利な機能で,英語学習者は,これだけでもDD-IC100を購入する価値はあります。
★ <履歴>辞書でひいた単語(英和・和英)を,最新の50語まで自動的に記憶する機能です。前述の暗記帳機能が,ユーザの指示で単語を登録するものであるのに対し,履歴機能は自動的に記憶するという違いがあります。暗記帳機能と同様,履歴画面からキー1つで辞書のエントリーを参照できます。ただ,問題なのは,履歴(暗記帳もです)画面から参照した辞書のエントリーは,通常検索で表示されたエントリーと異なり,ジャンプ機能や,後述の連続検索機能が使えないということです。これは非常に不便ですので改善が望まれます。
★ <連続検索>辞書のエントリーが表示されている画面で,スペルを入力すると,自動的に検索語入力の画面に切り替わる機能です。「クリア」などのキーを押さなくてもいいので,多くの単語を連続して検索するときは便利です。
★ <文字拡大>画面上のある1行を24×24ドットで拡大して表示する機能です。とくに年配のユーザにとっては文字が見やすいので便利だと思います。私にはそれほど必要な機能ではありませんが,和英辞典で文字拡大機能を使えば,ちょっと漢字が思いだせないときの字引きがわりになるので(^^;; 便利です。
今までは,IC辞書といえば,高価で,大きく,重いけれども,冊子体の辞書の内容を丸ごと収録した「フルコンテンツタイプ」と,安く,小さく,軽いけれども,語数が少なく,例文などもカットされている「単語翻訳機タイプ」の2種にわけられていました。フルコンテンツの機種は魅力的だけど,高いし,かさばるから,という理由で敬遠していたユーザも多かったと思います。しかし,DD-IC100の登場により,値段はともかく,大きさと重さの点では,フルコンテンツタイプと単語翻訳機タイプの差はほとんどなくなってきたと言えるでしょう。つまり,単語翻訳機タイプの辞書の存在価値が怪しくなってきたとさえ言えるわけです。
もっとも,現時点では,大きさや重さはともかく,値段の差は歴然としています。DD-IC100の定価29800円は,フルコンテンツの辞書の中では画期的と言える設定ですが,それでも,単語翻訳機タイプの電子辞書は,ほとんどのものが数千円,自由文発音機能などがついた,ハイエンドのものでも1万円少しで買えます。現時点では,まだまだ「安いから」という理由で,単語翻訳機タイプの機種も売れることでしょう。しかし,その価格差は,今後急速に縮まっていくはずです。
DD-IC100は,同じソニーが出している電子ブックプレーヤーの存在価値にも影響を及ぼすでしょう。主力機種のDD-S30と比較すれば,大きさ,重さ,英和・和英の収録語数,価格などの点では,DD-IC100のほうが,明らかに優位にたっています。言いかえれば,国語辞典(広辞苑)が標準でついてくることや,メディアの交換で様々な辞書がひけるということ,画像や音声に対応していること,若干画面が大きいということぐらいしか,電子ブックプレーヤーのメリットは見つからないのです。電子辞書のユーザの多くは,収録辞書の種類,検索の多様さなどよりも,安く,小さいものを選ぶという状況を考えると,今後の電子ブックプレーヤーの動向には予断を許さないものがあります。S-EBXA規格の普及により,今後は,電子ブックプレーヤーは,画面のカラー化などで,よりマルチメディア的要素が強くなるのでしょうが,パソコンのCD-ROMとどう差別化をするか,また,DD-IC100のような小型軽量IC辞書とどう差別化するか,という点で注目されると思います。つまり,パソコンのマルチメディア辞書には及ばないし,小型軽量という点でも難がある,という,ある意味では電子辞書の中でも中途半端な存在である電子ブックプレーヤーが,今後どうなっていくのか,という点が気がかりです。
また,競合他社(SII,シャープ,カシオなど)が,ソニーというブランドに対抗するためにどのような商品を開発するかということも重要になってくるでしょう。SIIが最近リリースした,辞書内の単語はもちろん,ほとんどすべての例文と,自由に入力した英文も発音するフルコンテンツの電子辞書もその1つであると感じます。DD-IC100の(一般ユーザにとっての)最大の難点は,発音機能(単語レベルでさえ)がないことです。おそらく,今後もこれだけの大きさで発音機能までつけることは厳しいでしょうから,SIIのコンセプトは,DD-IC100にも十分太刀打ちできるものと言えます。
発音機能はなくてもいいから,とにかく小さくて軽く,それでいて例文や解説もしっかり載っている辞書がいい,という方には,DD-IC100は文句なくおすすめできる電子辞書であるといえます。ちなみに,量販店での実売価格は24000-26000円ぐらいでしょうか?
IC辞書の動向('99.11追加)
冊子体辞書を丸ごと収録したフルコンテンツタイプのIC辞書第1号機がセイコー電子工業から発売されて8年近くたち,製品としてはほぼ完成の域に達していると言えます。現行製品の機能は,どこのメーカーのものでも大差はなく,サイズや画面解像度といった点の改善に重点がおかれてきたように思えます。ところが,ソニーから小型軽量のIC辞書であるDD-IC100が発売され,最近では,IC辞書の老舗であるセイコーインスツルメンツから多機能,大容量のIC辞書であるSR-8000が発売されたことで,IC辞書の向かう方向が二極分化してきたように思えます。 1つの流れは,DD-IC100に代表される,従来のスペックを維持しつつも,より小さく,より軽くという方向です。
もうひとつの流れは,SR-8000に代表される,寸法や重量はほぼ従来のままで,より大画面に,より多機能にというものです。IC辞書の大画面化は,カシオのXD-1000/1500が先鞭をつけたものですが,SIIは,XDシリーズと同サイズの液晶画面を採用した上で,2画面分割やスーパープレビューといった,大画面を生かした機能を中心に,数々の新機軸を搭載しています。最近では,英語を専門としている人を中心とした,電子辞書のパワーユーザーは,単に冊子体辞書の内容をフル収録しただけのIC辞書のスペックには満足せず,豊富な検索機能をウリにしたCD-ROM版辞書に関心が向きがちでしたが,SR-8000のスペックは,彼らのようなパワーユーザでさえもうならせるものがあります。