7. 質疑応答(QA)（発表者の視点から）

かなり発表経験を積んだ人でもQAは苦手，という人はたくさんいます。まして，初めて発表する人にとっては，どんなことを言われるのだろう，と針のむしろに立たされたような気分になるのではないでしょうか。

勘違いしないでほしいのは，QAで質問やコメントをされるというのは，あなたの発表が分かりにくかったり，退屈な内容だったからではありません。むしろ，刺激に満ちた，よい発表だったからこそ，質問やコメントが出てくるのです。どうしようもない発表なら質問などしようとも思いません。休憩時間に食いこんでまで質問やコメントをされるというのは，発表者にとっては最大の名誉であり，胸を張っていいと思います。

質問者は，あなたの味方です。発表内容を把握し，関心を持って聞いてくれていて，もっとあなたの研究を知りたいから質問やコメントをするんだ，というふうにとらえましょうね。私自身，院生の発表で質問やコメントをした相手を考えてみると，私など足元にも及ばない素晴らしい発表に対しての場合がほとんどです。最初のうちはQAも不安でしょうが，慣れてくると「今度の発表では，誰がどんな質問をしてくれるのだろう？」と，楽しみにさえなりますよ。

不安なら，QAもランスルーしておく→発表経験が豊富な友人たちと，「こういう質問が出そうだ」と「ヤマ」をかけ，それぞれどう対応するかをディスカッションし，紙に書いておきます。出てくる質問の大半は事前に予想がつくので，ランスルーをしておけばQAで立ち往生することもありません。方法論的な信頼性を突っ込まれる学会なら，自分の使ったデータソースに関して事前に予備知識を仕入れておくと有利です。以前，ある若手研究者がスペイン語の新聞と日本語の新聞の記事を対照した発表をしたとき，「この2つの新聞が等質であるとなぜ言えるのか？」というお決まりの質問が出たのですが，彼女は，それぞれの新聞の発行部数や位置づけを数値で示し，よどみなく切り抜けていました。その手の質問があろうことは事前に予想できたので，図書館等で調べ，データを準備しておいたそうですが，たかがQAと侮ることなく，入念に準備された姿勢には敬服しました。私も見習わないと…

上級テクニックとして「サクラ」を使う手も→発表時間内でカバーできないようなことを，事前に友人と打ち合わせて「質問」してもらい，それに答えることで発表内容の補足をすることができます。また，フロアからの質問がまったくない場合というのは何とも言えない雰囲気が漂いますが，「サクラvがいれば1人は質問するのだから，サマにはなります。体面上の問題ですが…。

サクラの人選→自分と同じ所属の人だと，いかにも「サクラです」という感じになるので，他大学の友人の院生などが無難かな？　また，サクラの人は，当然自分のするサクラ質問の内容まで自分なりに理解していなければなりません。というのは，発表者を通り越して，第三者がサクラ質問者に反論や質問をすることも考えられ，そうなったら打ち合わせをしていない内容へ話が行ってしまいます。そこでサクラであるのがばれてしまうのは，みっともないですよね。

質問を聞きながら，要点をメモしよう→とくに1人で複数の質問をする人の場合，覚えきれないので，必ず質問を聞きながらメモをとりましょう。質問が終わってから，「えーと，最初のご質問は何でしたっけ？」などというのは，みっともないです。また，メモする際は質問内容だけでなく，質問者の所属，氏名も（聞き取れれば）併記しておきます。あとでコンタクトをとれるので。

答える際は，まず「ありがとうございました」の一言を→とくに辛口のコメントの場合，この一言が会場や質問者を和やかにします。（発表の本題と関係ないところを突っついてきた人への対応の例→）「ご指摘ありがとうございます。話者の性別によって，ターンテイキングの頻度が異なってくるのではないかというご指摘ですが，まさにそのとおりかと思います。ただ，今回の研究の目的は日英語話者間でのターンテイキングを比較することであり，話者の性別にまでは考慮に入れておりませんでした。今後は，性別や年代差のような変数も考慮に入れていきたいと思っております」

答える際，最初に質問内容を一言で要約し，それから答えに入る→フロア全体に何が質問されたかを浸透させる効果があります。教育実習で，生徒が答えたら，その答えの内容を教師がもう一度リピートするように，と言われたでしょ？例・「あいづちをどう定義するかという問題でございますが，私の研究におきましては…」「データの等質性に関する問題でございますが…」

「質問」でなく「コメント」の場合も，ただ「ありがとうございました」でなく，プラスアルファを必ず入れる→そのコメントが自分の今後の研究にどう役立てていけそうか，などを簡単に触れるといいでしょう。もっとも，相手は善意でコメントをしてくれているのだから，たとえ自分のスタンスと異なってもそれを露骨に表さないように！　相手の路線を尊重しましょうね。例・「貴重なコメントをどうもありがとうございました。フレームを用いた考察は，ちょうど今手がけたばかりでありますが，先生の教えてくださったBatesonの文献などにもあたり，今後の研究課題とさせていただきます。どうもありがとうございます」

けんか腰にならない→たとえ質問者のものの言い方，態度等でカチンときても，それを絶対に発表者は表に出さず，終始冷静に！　発表者が質問者の物腰に動じず，クールに受け答えすれば，質問者にとっては無言の威圧感になり，「この人は手強い」という印象を与えることができます。中にはいわゆる「QAマニア」というか，大した実力もないのに他人の発表の揚げ足取りというか，ちょっとした点を鬼の首でも取ったようにQAで批判することが好きな人種がいます。そういう人たちには，カッとなったら逆効果。「冷静さ」が一番効きます。

予期しない質問がきた場合→慣れてくれば，こんなことはまずないと思いますが，はじめのうちは，思いもしなかったことをQAで聞かれる場合があるでしょう。どうしてもその場で対処できないと思われる場合は，無言で立ち往生するよりは，正直に「それに関しましてはちょっと今勉強不足ですので，はっきりとしたお答えができません。申し訳ありません」と素直に認めるほうが，好印象を与えると思います。立ち往生よりもっとまずいのは，知ったかぶりやでっち上げ（ありもしないことをもっともらしく言う）で，これは墓穴を掘ります。相手が下手に出ているから専門外の人だろうと思ってはったりをかましたら，実はその分野の重鎮の人だった，となれば悲惨！です。

答えられるが，説明すると長くなりそうな場合→あわててその場で答えると，支離滅裂な説明になり，相手に理解してもらえなくなる危険があります。必要最小限の答えをして，「詳細を今お話しすると時間がかかりますので，懇親会のときにでもゆっくりお話しできたら，と思います」のように「休戦宣言」をするのも得策です。懇親会までの間，時間稼ぎができる！　もちろん，こう言った以上，懇親会の席では自分から質問者に声をかけるのがエチケットです。

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