6. 発表中

• 壇上へあがるとき持参するもの→ハンドアウト（参加者が持っているものと「まったく」同じもの），原稿，筆記用具（ボールペンなどがよい），時計（ストップウォッチ機能の付いたものが便利）。OHPを使う際は，シートやレーザポインター（または指示棒）も必要です。登壇してから原稿を忘れたことに気づき，席にとりに戻ったりということのないように…。

• 壇上へ上がっていきなり発表を始めない→聴衆も準備ができていないし，発表者本人も緊張が増すだけです。発表時間にもよりますが，簡単な自己紹介をつけるとリラックスできます。午前中の発表なら「おはようございます」の一言ぐらいあってもいいと思うけど，大半の発表者は挨拶もしないで発表を始めます。例1ぐらいの自己紹介なら，たいして時間もとらないからおすすめ！

  （例1）「おはようございます。愛知淑徳大学大学院の関山と申します。よろしくお願いいたします」

  （例2）「おはようございます。愛知淑徳大学大学院の関山と申します。ポライトネスを中心とした語用論に携わっております。よろしくお願いいたします」→専門分野の紹介を入れた例。とくに似たような分野の人が多い学会では有効です。

  （例3）「おはようございます。名古屋からまいりました，愛知淑徳大学大学院の関山と申します。名古屋は毎日熱帯夜が続いていますが，さすがに伊豆は過ごしやすく，このような快適な場所で発表することができて光栄です。よろしくお願いいたします」→遠方の学会なら天候ネタ・地理ネタが使えます。どこから来たかを言うと，あとで地元の参加者から声をかけられたりします。遠方の学会で地元の人と知り合いになれるというのは貴重です。

  （例4）「こんにちは。○○大学大学院の××と申します。最後まで残って聴いてくださってどうもありがとうございます」：ある学会の研究発表で，最終発表者の人がこんな洒落た挨拶をしました。とても謙虚だけど，決して嫌みに感じられない，彼女のこのさりげない一言は，真似しようと思ってできるものでもありません。自分の業績稼ぎだけのために発表するのでなく，聴衆の身になった発表姿勢には，とても敬服しました。もちろん，この後に続く発表や，QAでのやりとりも素晴らしかったのは言うまでもありません。逆に言えば，発表自体の準備に余裕があるからこそ，こんな細かな気配りができるのかもしれませんね。

• 発表開始前（自己紹介のあと）にハンドアウトの枚数を確認→好みにもよりますが，「ハンドアウトはお手元にございますか？　A4のものが4枚，B4の追加資料が1枚あります。枚数をご確認ください」という心配りも，あるにこしたことはないでしょう（とくに，私のようにハンドアウトがいつも分厚い人や補足資料のある人は…）。また，聴衆が多い場合や，ハンドアウトを各自でとる形式の学会では，ハンドアウトを持っていない人がいる可能性もあるので，このような配慮は必要でしょう。

• 時計は腕からはずして，演壇のうえに置く→そうすれば，発表中でも目線をあまり動かさないで時計がみえます。腕にはめたままだと，聴衆にも時計を見る動作が分かるので，落ち着かないです。ちなみに，これは学部のころ，塾でバイトをしていたとき，保護者面談の際の鉄則として教えられたことです（父兄と話していて，露骨に時計を見る動作をすると，時間を気にしているようで相手は快く思わないので！）。

• マイクは手に持って→好みにもよりますが，板書をしたり，OHPのスクリーンをポイントしながら話す場合は演壇から離れることになるので，マイクは，スタンドに固定したままよりは，自分の手に持って発表したほうがやりやすいでしょう。カラオケの要領ですね！　原稿は演壇におき，マイクを左手に持ち，右手は板書やジェスチャーその他用にあけておくといいかな？　ワイヤレスマイクが増えてきていますが，コードのついたマイクの場合，板書やOHPシートの交換などで動く際，コードにつまずかないように（私自身，コードを引っかけて失笑を買った経験があります）。

• マイクのスイッチを必ずオンにする→ほとんどのマイクにはスイッチがあります。当然ですが，発表の前にスイッチをオンにします。スイッチを入れないで，「マイクが入っていない」と言ってあわてる発表者がどこの学会でも必ずいます。慣れてくると，咳払いをしたくなったらマイクのスイッチを切ってからする，などというテクニックも身についてきます。

• マイクを天井のほうへ向けない→マニアックな話で恐縮ですが，演説用マイクの多くは単一指向性といって，マイクの真正面からの音を重点的にひろうようにできています。そのため，マイクをあなたの口のほうへ向けて話す必要があります。マイクを上に向けると，大半の会場は天井にスピーカーがあるので，ハウリング（キーンという発振音）の原因になります。発表中，無意識のうちにマイクが天井を向いてしまうことがあるので注意しましょう。逆に言えば，ハウリングが起こったら，マイクを自分の顔のほうへ向け，また，マイクを口元から少し離すと静まるということです。

• 声の大きさ→マイクに近づきすぎないように！　マイクを使う発表の場合，自分で「このマイク，ちょっと音が小さいなぁ」と思うぐらいの音量で，聴衆にはちょうどいいぐらい。自分がちょうどいいぐらいの音量だと，聴衆には大きすぎる場合が多いです。大半の会場は，スピーカーは聴衆の真上の天井にあるのですから…。

• アイコンタクト→聴衆の目を見て話しましょう。方法はいろいろあるので，以下は私の例。1人をじっと見ると相手も疲れるので，前列に座っている数人を1人ずつゆっくり見て，つぎに会場中央あたりの聴衆を見渡して，前列に戻る，という感じ。前のほうに座っている聴衆は，自分の発表にかなり関心を持ってきている人の場合が多い（とくに，終始顔を上げて（発表者のほうを見て）聞いている人とか）ので，発表中，目線をあわせると終始無言で励ましてくれる（説明のたびにうなずいてくれたり…）場合が多いです。

• 必要以上に自分を謙遜したり卑下しない→これは賛否両論あると思いますが，「初めての発表なので至らぬ点も多いと思いますが…」などは，基本的に不要だと私は思います。自信を持って！　このようなことを言えば，よけいに自信がなくなるだけです。聴衆は，あなたの発表内容に関心を持って聞きに来ています。あなたが未熟な発表者か否かといった個人的事情には関心ありません。「○○大学大学院」という肩書きが暗黙のうちに「未熟」であるとすでに伝えているので，あえて自分の口から未熟な発表者であることを白状する必要はない，というのが私の考えです。本当に未熟な発表でも院生の間は「まぁ院生だから」と大方は好意的に見てくれるし，素晴らしい発表をしても，「院生」というだけで思ったほど評価はされないのがこの世界なんですよね。また，全国学会，国際学会のような大きなところなら，通常は発表概要の審査にパスして発表できるわけだから，「発表させていただく」のように過度にへりくだる必要もないのでは？　招待講演ならともかく，abstractの審査を通り，参加費や交通費，宿泊費まで負担して発表に参加するのなら，「発表いたします」でいいと思います。もちろん，コネ等で発表の便宜を図ってもらった場合は別ですが，それにしても，個人的に感謝の気持ちを表せばいいわけで，発表中に言う必要はありません。次の項目とも関連しますが…

• 私的な発言をしない→学会発表はpublicな場所です。指導教授への謝辞等を発表中に口頭で言ったり，内輪（自分の大学の院生）しか分からない内容の発言をする人がいますが，聞き苦しいものです。そんなことを言う時間があるなら，そのぶんもっと分かりやすく説明してほしいなぁ，なんてよく思います。

• 原稿以外の内容をアドリブで挿入する場合→原稿以外の内容をアドリブで挿入する場合：原稿を用意した発表でも，聴衆の反応に応じてアドリブで説明を追加したりする場合があります。その際，アドリブが終わり，原稿に戻ろうとしたとき，どこまで読み終わったのか分からなくなることがあります。私がAILAで久しぶりの英語発表をしたときがそうでしたが，心の中ではパニックになります。原稿の棒読みでなく，より分かりやすくするためにその場その場で臨機応変にアドリブ解説をしたのが，逆効果になりかねないわけです。このようなミスは，アドリブに入る前に，原稿にペンで印をつけておけば回避できます。

• ハンドアウトの区切りごとにポーズを置く→ポーズをおかないで一気に続けると，聴衆にとっては，今ハンドアウトのどこをやっているのか分からなくなります。また，発表者にとっても，ポーズをとることによって思考が整理されるので，言い間違えたことや補足すべきことなどが把握できます。ポーズの後，新しいセクションに入るときは，以下の例のようにハンドアウトのどこを参照するかにもふれると親切ですね。（例）「以上，方法論についてお話ししました（ポーズ）。つぎに調査の結果に移ります。ハンドアウトの3をご覧ください…」

• 発表の最後を明確に→「以上で私の発表を終わります。ご清聴ありがとうございました」のように。

• 時間をオーバーしても動揺しない→ランスルーの節でもお話ししたように，大きな学会では，制限時間をベルで知らせてくれます。ところが，ベルが鳴らされたとたん，発表者のほうがうろたえてしまい，かんじんの結論が分かりにくい発表になってしまうことがあります。発表中は，発表の主導権は発表者が握っているわけですから，万一延長してしまっても，あわてずに，ベルを無視して続ける冷静さも必要でしょう。ベルが鳴ってから数分の延長は，たいていの場合大目に見てくれます。もちろん，これは「万一」の場合であり，時間通りに終わるように準備すべきなのは，今さら言うまでもありません。

• 板書は，QAが終わったら自分で消す→消し忘れて次の発表者が消すというのは非常に失礼です。OHPの電源なども同様に…。

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