5. 発表直前

以前，ある学会で発表する後輩に，直前の休憩時間に「がんばって!!」と声をかけたのですが，「はぁ，ありがとうございます」と，一見放心状態で，大丈夫かなぁと思ったものでした。実際の発表ではそんな様子はかけらもなく，時間をかけて準備していたことが伺える素晴らしい発表だったのですが，どんなに入念に準備をしていても，自分の発表の直前というのは，誰でも緊張するものですね。

皆さんも，発表の直前には同じようなことを経験するかと思いますが，今からお話しする「Inverted V（逆さV）の法則」（正式名称は知りませんが）を頭の片隅に入れておくと，少しは楽になるかもしれません。これは，昔，スピーチコミュニケーションの授業で耳にしたことですが，発表などをする際の緊張度の度合いを表したものです。上の図を見てください。発表の日が近づくにつれて，だんだん緊張度は上がっていきます。そして，発表当日，自分の番になる直前というのが，緊張度のピークになります。そして，発表が始まると，今度は徐々に緊張度が下がっていくということです。このように，緊張度を表す曲線がVの字を逆さにしたようなカーブを描くことからInverted Vと呼ばれているのです。ポイントは，逆さVの頂点が，発表開始の直前にあるということです。発表直前の緊張は，いったん発表が始まってしまうとだんだん緩和されていきます。緊張して不安になってきたら，Inverted Vの図を思い出し，発表が始まったら，もっともっと楽になるんだ，とあなた自身に言いきかせてください。20分も間が持つかなぁ，と思うかもしれませんが，始まってしまったら，あっと言う間です。だって，たかだか，東京から山手線の外回りで渋谷ぐらいまで行く程度の時間なのですから！　ここでは，発表直前の極限の緊張が少しでも楽になるtipsをいくつか紹介します。

可能であれば，事前に試しに壇上へあがってみる→午前のセッションなら，受付開始（セッション開始ではなく）と同時ぐらいに会場へ入って，壇上へあがってみましょう。午後からのセッションで発表なら，昼食休憩時にできます。会場の広さは？　聴衆の数は？　マイクの調子は？　板書用具（チョーク，白板マーカーなど）は整っている？　OHP (OHC)の準備は？　機器の操作法（OHP / OHCのスイッチ，マイクのスイッチなど）は？　事前に壇上へ1回でも上がっておくだけで，本番の緊張がかなりやわらぎます。ほんと！

発表前に必ず司会者と打ち合わせをする→「○○先生ですか？　×番目の発表者の○○です。よろしくお願いします」と自分から声をかけましょう。機器を使うなら，その準備の手はずを確認します。また，時間配分（何分発表，何分QA）も再確認しておきましょう。ベルを使うなら，ベルの意味（最初のベルが残り5分の意味で，次のベルが発表終了の意味だとか）も確認しておきましょう。知らないと，最初にベルが鳴った時点で終了だと思ってしまったりということがよくあります。機器を使う場合は，必ず事前に操作法を聞いておきましょう。

発表直前の休憩時間に，必ずトイレに行く→幼稚園児にするアドバイスのようで恐縮ですが，発表は，基本的に立ってするので，トイレも近くなります。緊張するとなおさら！　私も，一度だけ，発表中にトイレに行きたくなり，我慢して発表を続けたことがあります。無意識のうちに話すスピードが上がり，予定より2分も早くQAへ（もしかしてどこかを飛ばしたかもしれない！）。聞いている人はたまらなかったでしょう。「わかりやすい発表を」などとえらそうなことを言っているくせに，と思うかもしれませんが，だいぶ前の話なので，時効ということにしてくださいね。

英語発表をする際の準備体操→英語発表をする際，私を含めて発音コンプレックスを持つ人は多いと思います。ふだん英語を話すときはそれなりの発音で話していても，学会発表や教室での授業のように，声が大きくなると，どうしても英語らしい発音ができない，と悩んでいる人は多いでしょう。日本語を話す際は，英語にくらべて口の動きが少なくてすみます。これは，日本語の母音と英語の母音の調音的な違いによるものが大きいのですが，逆に言えば，英語を話すときは，口の動きを大きくしないと英語らしく聞こえません。そこで，英語発表をする場合は，事前に「う・さ・ぎ」（兎）と（普通に日本語を話すとき以上に）大きな口を開けて（大きな声を出す必要はありません！）何回も繰り返し言いましょう。勘のいい人は分かると思いますが，「う」は唇が丸まって，縦に長くなり，「さ」で戻って，「ぎ」では，逆に横に長くなります。これをくり返せば，唇の運動量(?)が英語モードになるので，英語らしく聞こえるということです。これは，海外の大学で学位をとられた先輩から教わったことで，最初は半信半疑だったのですが，意外と効果がありますよ。

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