2005年度版 英語の辞書へのアプローチ
2005年4月10日版
関山 健治(沖縄大学)
sekiyama.kenji@nifty.ne.jp
http://www.sekky.org/jisho.html
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目次
英和辞典は,皆さんも1冊ぐらいは持っていると思います。ほとんどの皆さんは,高校入学時に辞書を新しく買い,高校3年間の間,授業の予習に,受験勉強に,毎日のように使ったことでしょう。きっと,その辞書には愛着も人一倍あることと思います。
しかし,辞書は消耗品です。高校へ入学したときと,今の皆さんの英語力をくらべれば,格段の差があります。辞書も,それに応じて買い換えていく必要があるのです。とくに,高校入学以来の辞書をそのまま使ってきた人は,「大学入学記念」として,新しい英和辞典を1冊買うことを強くおすすめします。以下にあげたものの中から1冊選べばいいでしょう。とくに英語を専門に学ぶ皆さんにとっては,英語の辞書は「商売道具」です。「お金があれば,英語の辞書をもう1冊買おう」が合い言葉です。
昔から,手あかにまみれてボロボロになった辞書は,英語を熱心に勉強した証のようなもので,そのような辞書をもつことは誇りであるとされてきました。「プロの職人や芸術家が,何十年もの間,一つの道具なり,楽器なりを使い込むのと同様に,英語を学ぶ者は,1つの辞書を徹底的に使いこなすべきだ」という考えには,一見,説得力があります。しかし,英語の辞書は楽器などとは違います。楽器は,何十年と使ってもその機能に変化はありません。20年前のフルートでも,今のフルートでも,運指は同じですし,音色や音域も変わりません。このような楽器でしたら,使い込めば使い込むほど,演奏者は楽器のクセや特性をのみこめるため,いい音が出せるようになるのです。しかし,楽器の中でも,例えばシンセサイザーやエレクトーンといった電子楽器は別です。これらは,年々その機能が進歩しています。そのため,本職のミュージシャンなら,何十年も前の機種を頑なに使い続けるというわけにはいきません。何よりも,電子楽器は,原始的な楽器と異なり,演奏者の微妙な息づかいや,個々の楽器の癖といった経験的要素が音色に反映されにくいので,長い間1つの楽器を使い続けるメリットはそれほどないはずです。
辞書に関しても,シンセサイザーと同じことが言えます。辞書は,言葉という「生き物」を扱ったものです。私たちの日本語が日々刻々と変化しているのと同様に,英語もどんどん変化しています。最近の辞書編集は,コンピュータをフルに導入していることもあり,昔ほど時間はかかりませんが,それでも1つの辞書を作るには最低でも5年ぐらいは要します。いくら1つの辞書を使い込んで,その辞書の特性まで熟知したとしても(そのような人が果たしてどのくらいいるか,という問題もありますが),記述内容が古ければどうしようもありません。
試しに,あなたの持っている辞書でWorld Trade Centerを引いてみてください。最新の辞書なら,2001年の同時多発テロにより崩壊したという補足説明が載っているはずです。英語を専門にする人なら,これぐらい新しい辞書を使いたいものです。一般教養で英語を学ぶ人で,そうそう辞書を買い換えられないという人は,Euroを引いてみてください。「EU諸国の貨幣単位」(ユーロ)という語義が載っていれば,2000年以降に新刊,改訂された辞書と言えます。最新版ではなくても,5年以内に改訂された辞書を使っていればまず大丈夫です。 |
高校や予備校などの教育現場を中心に蔓延している迷信です。辞書会社もビジネスですから,同クラスの競合辞書よりも1語でも多くの単語を収録するように努め,辞書のケースなどに「類書中最多の○○語を収録」などと大きく記載します。そして,「類書中最多の語数を収録した辞書=類書とくらべて最も良い辞書」という図式が出来上がってしまうのです。
そもそも,「収録語数」とは一体何でしょうか? 「辞書に載っている単語の数に決まっているではないか」と思うかもしれません。それなら,「単語の数」とは何でしょうか? たとえば,goes, going, went, goneといった単語は,すべてgoの変化形ですが,これらはバラバラにして4語と数えますか? あるいは,goの変化形だから,すべてまとめて1語とカウントしますか? もし不規則変化の語をバラバラに数えるのなら,規則変化のplay, plays, playing, played…はどうしましょうか? あるいは,color, colourといった英米でのスペリングの違いはどうしましょう?
このように,一口に「単語」といっても,何を単語とみなすかで,かなり数え方は違ってきます。そのほかにも,辞書に載っている成句(イディオム)を「単語数」にカウントするか,語義の最後に形だけ示している派生語はどうするか,など,問題はたくさんあります。そして,最大の問題は,このような数え方の基準が,辞書によって必ずしも統一されていないということです。そのため,同じ収録語数の辞書でも,実際の語数は辞書によってかなりばらつきがあります。
確かに,難解な文献を翻訳したりする場合などは,単語数の多い辞書=よい辞書,と言えるかもしれません。しかし,私たちは,翻訳だけでなく,英語を書いたり,文法事項を調べる時にも辞書を使います。語数が多い辞書だと,用例や文法表記といった,英語を発信する際に必要な情報がどうしても手薄になるので,英語を書く際にはあまり使えません。かといって,英語を専攻する私たちが,収録語数4〜5万語の高校英和しか持っていないというのも考えものです。とくに英語を専門とする人たちにとって最も大切なのは,読者対象の違う複数の辞書を購入し,必要に応じて使い分けるということです。
英和辞典は種類がいろいろあり,最近では,小型辞書(コンサイスなどと呼ばれる,縦長で薄手の辞書)が,持ち運びに便利であるということもあり,よく売れています。このような辞書は,どこへでも持ち歩けるという反面,単語の意味(訳語)中心の記述になっているため,例文や文法的な解説などは割愛されています。
コンサイスのような小型辞書は,英語を「道具」として使っているビジネスマンや,海外旅行者には有用ですが,皆さんのように,英語を学んでいる人の学習用には,あまり役に立ちません。授業の予習などで辞書を引くときは,小型辞書でなく,以下にあげるような通常サイズの学習辞典を使い,面倒がらずに,単語の意味だけでなく,例文や文法,語法解説にも目を通すようにしましょう。もちろん,小型辞書を使っていけないというわけではありません。小型辞書なら,旅行に行くときや,週末にちょっと買い物に出かけるときなど,英語とはあまり縁のなさそうなことをする際でも,さほど苦労しないで持ち歩けます。地下鉄の車内広告で見かけた,知らない英単語の意味をちょっと調べたりすることも,手元に辞書があれば簡単にできますね。
もし,標準サイズの辞書が大きくて重いと感じるなら,小型辞書を買うよりは,ちょっと奮発して,標準サイズの辞書の内容をそっくりそのまま収録した電子辞書を買うことをおすすめします。重さ(厚さ)は,小型辞書の半分程度なのに,標準サイズの辞書の内容が(例文や文法解説なども含め)すべて収録されています。また,ワープロ,パソコンと同じキー配列になっているので,慣れれば紙の辞書をめくるよりも早くひけるのも特徴です。詳細は,電子辞書へのアプローチ(http://www.sekky.org/jisho.html)をごらんください。
この迷信のおかげで,今まで何人の英語学習者の人が「英英辞典ギライ」になってしまったことでしょうか。背景には「日本が出している(英和)辞書よりも,海外の出版社が出している(英英)辞書の方が高級で,良い辞書だ」という,変な欧米崇拝的な考えや,「英語で考える」ことが英語上達の秘訣だ,という見方があるように思えます。
確かに,英語力をつけるために英英辞典を使うことは大切なことですが,だからといって英和辞典が不要だというわけではありません。英英辞典の章でもふれますが,私たちにとっては,英和辞典と英英辞典を必要に応じて使い分けることが必要になります。
最近の電子辞書の普及とともに,こういうことがまことしやかに言われるようになりました。概して,(失礼な言い方ですが)年輩の英語教師など,「機械もの」が苦手な人が言う場合が多いようです。
ページをめくって辞書を引くか,キーを押して辞書を引くか,という手法の違いが単語の記憶に影響を及ぼすという研究は,最近辞書関係の学会で発表されるようになってきてはいますが,まだ統一見解は得られていないのが現状です。このような段階で,英語教師の個人的な価値観を過度に生徒に押しつけることは生徒の反発を招き,逆効果になりかねません。
いずれにしても,仮にこのようなことが本当であるとしても,電子辞書にはそれを上回るメリットがいくつもあります。詳細は電子辞書へのアプローチでふれていますが,小型軽量なので場所を選ばず辞書が引けることや,紙の辞書より速くひけること,キー一つで他の辞書での引き直しができること,英作文の際に例文検索機能を活用することで,自然な英文を書くツールとして使えることといった,電子辞書の様々な特徴は,英語学習にプラスになることはあってもマイナスにはならないと思います。
もっとも,現在の冊子体の辞書が,内容的にも非常に素晴らしいものが揃っていることは紛れもない事実です。そのため,電子辞書なら何でもいいというわけでなく,冊子体と同内容を収録した(フルコンテンツタイプ)電子辞書でないと英語学習のうえでは効果がないということは言えます。
電子辞書の中学,高校現場への急速な普及に伴い,電子辞書を「楽する手段」として考える人が増えてきました。たしかに,電子辞書は紙辞書よりも速く引けることは事実ですが,その一方で,電子辞書のマイナス面も多くあります。簡単に引けるため,今までは辞書を引かない単語までどんどん辞書を引いてしまい,英文読解の際に未知語を類推するといったスキルの養成に支障をきたしたり,授業中にも簡単に引けるために予習をしてこない学生が増えたりといったことが,ここ数年の電子辞書の普及とともに多く指摘されています。
私としては,電子辞書のおかげで単語を速く引けるようになったことで「楽ができる」「予習時間が少なくてすむ」ととらえるのではなく,「今まで以上に辞書をじっくり読めるようになる」「今まで以上に深く調べることができるようになる」と考えることが重要であると考えます。「紙辞書よりも時間をかけて電子辞書を引く」ことがポイントです。英和で調べた単語から英英にジャンプし,英英辞典の定義,用例をじっくり読んでみたり,類語辞典(thesaurus)にジャンプすることで単語の量を増やしたりすることは,紙辞書では面倒ですが,電子辞書なら簡単にできます。また,和英辞典で引いた単語を英英,英和でダブルチェックすることで,より自然な英文が書けるようになるでしょう。学校の帰りのバスや電車の中では,居眠りをするかわりに電子辞書の履歴機能を使い,今日引いた単語をもう一度振り返ってみることが,語彙を定着させるためにも有効です。
このように,電子辞書を「高級な豆単」として利用するのでなく,収録されているコンテンツや機能をフルに利用すれば,速く引けるはずの電子辞書が,実際には紙辞書以上に時間がかかるようになります。しかし,その労力によって得られるものは,紙辞書とは比較になりません。
日本で出版されている英和辞典の水準は,世界的に見てもトップレベルで,イギリスやアメリカの辞書出版社も,参考資料として使っているそうです。しかし,皆さんにとっては,数が多すぎてどれを選んだらいいのか分からないのではないでしょうか? 以下に,大学での英語学習に対応できる英和辞典の中から,代表的なものをいくつか紹介します。
★上級学習辞典(総収録語数10万語前後)
最近は,電子辞書の普及により,リーダーズ英和辞典やジーニアス英和大辞典といった専門家向けの辞書が安価に入手できるようになってきました。そのためか,「大学の授業では中辞典クラスの辞書では対応できない。リーダーズや大辞典クラスの辞書が必要である」などということがまことしやかに言われています。しかし,以下の(1)-(5)にあげたような上級学習英和がどれか1冊あれば,大学の授業だけでなく,TimeやNewsweekといった高度なレベルの英文の読解まで十分に対応できます。もちろん,TOEICやTOEFL,英検1級レベルでも,数万語クラスの上級学習英和に出ていない単語は(固有名詞や一部の専門語以外は)まず出てきませんし,出てきたとしても基本的な英語の読解力(語彙力,構文解析力)があれば,そのような難語は読み飛ばしても十分内容を理解できます。いたずらに語数の多い辞書を求めることは,基礎的な英語学習をする上では逆効果になりかねませんので注意が必要です。最近の大学生向け電子辞書のほとんどは,後述(9)のジーニアス英和大辞典を収録していますが,それに加え,以上の5冊の上級学習英和の中から,自分に合いそうだと思うものを併用すれば,ほとんどの英語に関する疑問は解決できるでしょう。
時事用語,専門用語を中心に,11万語近い単語(高校生向け辞書の2倍弱)を収録しています。その一方で,基本的な単語にもかなりページを割き,用法や例文などを多く載せています。収録語数の多さと,学習辞典の丁寧な記述を両立した,バランスのとれた辞書です。これ1冊あれば,大学4年間はもちろん,社会人になってからも十分使えますが,英語が苦手な学生には収録語数が多すぎて使いにくいと感じるかもしれません。
中学や高校で学習する基本語の記述の詳しさは,文法書顔負けで,他の辞書の追従を許しません。総収録語数は9万語強で,(1)には及びませんが,授業の予復習や普通の英字新聞,雑誌の読解程度なら十分対応できます。英語を読むときだけでなく,書くときにも使える,詳しい辞書です。ただ,英語が苦手な人にとっては内容が詳しすぎるため,必要な情報が探しにくいと思うかもしれません。
※ 電子辞書版(各社多数)あり。
※ Windows / Mac対応CD-ROM版あり。
1980年代の高校学習英和の定番として圧倒的な人気を誇った『ライトハウス英和辞典』の上級版である『カレッジライトハウス英和辞典』を増補改訂した辞書です。細かな文法,語法解説よりも,辞書の基本である語義にこだわり,オーソドックスではありますが非常に見やすい辞書になっています。語義の展開図や日英比較の記述など,『ライトハウス英和辞典』で世間を震撼させた様々な新機軸はそのまま引き継がれており,高校上級生から一般社会人に至るまで,幅広いレベルの学習者に対応しています。とくに,非常に詳しい発音や綴り字の解説,文法書顔負けの文法解説など,付録の充実度は他辞書の追随を許しません。電子辞書版がないのが残念ですが,情報過多の傾向がある近年の上級学習英和の中で,学習者にとって本当に必要な情報を見やすく提示するというルミナスのスタンスは,これからの上級学習英和にも大きな影響を与えると思います。
10年ほどジーニアス英和辞典が幅をきかせていた上級学習英和辞典市場ですが,数年前に相次いで対抗辞書が出版されました。その第一陣がウィズダム英和です。ウィズダムはコーパスをフルに生かした編集で,実際に使われている英語の様子が,例文はもちろん,本文の記述にも,他の辞書以上に反映されています。ジーニアスと同様に非常に詳しい辞書ですので,英語が苦手な人は骨が折れるかもしれませんが,英語を専攻する新入生はもちろん,英語学が専門の院生や英語教師にも役立つ辞書です。
※ 電子辞書版(SSD-HS2000)あり。※この機種は出版社ブランドの機種なので通常の量販店には売っていません。
英語運用力を身につけるための新機軸を多く搭載した辞書です。日常会話でよく用いられる定型表現や,言外の意味の記述など,従来の上級英和辞典が見過ごしがちだった点が強化されています。コーパスのデータをそのまま反映させるのではなく,100名のネイティブにインタビューし,その結果の揺れをまとめたPlanet Boardというコラムなど,言語の持つファジーな側面にも考慮がはらわれています。ウィズダムやジーニアスは文法や語法に関する記述が多いですが,レクシスはコミュニケーションに役立つ(話者の意図など)情報が充実しているのが特徴です。
※ 電子辞書版あり。※この機種は出版社ブランドの機種なので通常の量販店には売っていません。
★大規模英和辞典(総収録語数20万語以上)
ここでは,英語を専攻する学生の皆さんが,上級学年になると必要になる大辞典クラスの辞書を紹介します。大学1年生の皆さんは必ずしも購入する必要はありませんが,英語を専門にする人で3年生以上の人は,1冊ぐらいは持っていても損はありません。
「ジーニアス英和辞典」などの中型辞書とほぼ同サイズですが,例文や文法事項の解説といった,学習辞典的要素を割愛したかわりに,収録語数を大幅に増やし,27万語近くを収録しています。普通の英和辞典に載っていないような固有名詞やスラング,略語などが豊富に収録されているので,ペーパーバックなどを読む際に便利です。
※ 電子辞書版(各社多数)あり。
※ Windows / Mac対応CD-ROM版あり。
日本を代表する英和大辞典で,戦前からの長い歴史をもっています。とくに,文学作品などからの引用例文や,文学的色彩の強い訳語が多いので,英米文学を専門にしている人や,フィクションの翻訳に携わっている人には必携の辞書です。20数年ぶりに改訂されましたが,単に新語義を増補するだけでなく,聖書やシェイクスピアにでてくるような古めかしい語もきちんと収録しているという点では,他の大辞典を寄せつけません。
米国で出版された英語大辞典(英英)を翻訳した英和辞典ですが,単なる翻訳でなく,例文や語彙を大幅に補充し,日本人の便を図っています。(7)にくらべ,実用的な色彩が強く,時事英語やスラング,映画のタイトルや商品などの固有名が非常に多いのが特徴です。改訂から10年ほど経過し,多少古くなっている点は否めませんが,翻訳者を始め,プロには根強い人気があります。2005年6月には,前述の「プログレッシブ英和・和英辞典」も収録した待望のIC電子辞書版が発売予定です。
※ 電子辞書版あり(小学館SG-RH1000)
※ Windows / Mac対応CD-ROM版あり。
コンピュータコーパスをフルに活用して編集された21世紀の英和大辞典です。ただ語数が多いだけでなく,類書に比べて用例も大幅に増加しました。文学作品や聖書からの引用はもちろん,天気予報や広告といった日常的なメディアの例文も多く入っています。他の大辞典は,語数が多いかわりに用例や文法解説は少なくなっているため,日常の英語学習(とくに,英作文など,発信面を学ぶ際)には役立ちませんが,ジーニアス英和大辞典は,学習英和辞典の代表格であるジーニアス英和辞典の詳細な解説や例文をベースに,収録語数や専門的な語義を増補したものですので,英語学習にも使えます。
※電子辞書版あり(セイコーSR-T7100,カシオXD-LP9300,シャープPW-V8900など)
※Windows / Mac対応CD-ROM版あり
辞書の老舗である三省堂が創立120年を記念して出した,日本で最大の英和辞典です。小型サイズの辞書ですが,収録語数36万語は,小型辞典はもちろん,大辞典よりもはるかに多いです。リーダーズや大辞典クラスの辞書にくらべると,語数が多いぶん,1語あたりの語義が簡略化されてはいますが,翻訳者など,とにかく語数の多い辞書が必要な人にはおすすめします。
※ 電子辞書版(シャープPW-9700)あり。
英語辞書交際録(その1)−ライトハウス英和辞典−私が英語を学び始めてから今まで十数年の間で,様々な辞書に出会いました。英語学習の伴侶(はんりょ)として,5年以上も“交際”している辞書もあれば,“一目ぼれ”をして買ってはみたものの,相性が合わないで本棚の隅でホコリをかぶっているものもあり,その数50冊(英和・和英・英英)ぐらいでしょうか。 私が高校に入って初めて買った辞書は,三省堂の『デイリーコンサイス英和・和英辞典』(当時は第3版)でした。そのころは研究社の『ライトハウス英和辞典』が絶賛されていて,学校でもあっせん販売していましたが,私はコンサイスを買いました。“ライトハウス”とほぼ同じ価格なのに英和と和英が一緒になっていて,語数も多く,しかも携帯に便利なサイズだったからです。“ライトハウス”よりも小さいのに語数が多いということは,当然学習辞典的な要素がカットされているわけですが,「辞書は単語の意味を調べるものだから,語数の多い辞書の方がいい」と思っていた当時の私がそれに気づかなかったのは仕方なかったのかもしれません。 高1の冬になって,コンサイスだけでなく学習英和も使ってみようと思い,『ライトハウス英和辞典』を購入しました。私にとって,“ライトハウス”には新鮮な驚きがありました。後に来る前置詞の種類や,その語が用いられる形を示した見やすい文型表示,単語の意味とともに掲載されている用例・・・すべて,“デイリーコンサイス”にはなかったものでした。今までは文型を調べるときなどはいちいち文法書を引っぱっていたのに,“ライトハウス”1冊ですべてこなせるというのも魅力的でした。「こんなに便利な辞書があったのか」と感心したのを今でも覚えています。 某予備校講師に内容を徹底的に批判されるなど,最近では何かと風あたりの強い『ライトハウス英和辞典』ですが,私がこの辞書からうけた恩恵には計りしれないものがあります。1冊目の辞書として“ライトハウス”を購入した人はその便利さをあたりまえのように思っているので,「例文が悪い」「親切すぎてうんざりする」などと思うのかもしれませんが,私のように,コンサイスのような実用英和をむりやり高校の英語学習に使ってきた人間には,とてもそんなことは言えません。学習英和がこれほど進歩している今日,コンサイスを真っ先に買うなどというのは英語の辞書とつきあう上では大失敗でした。語数が多い辞書が必ずしもよい辞書というわけではなく,高校生には高校生に適した辞書があり,高校生だった私はそれを選ぶべきだったのです。しかし,この失敗から,私は辞書に関してより深い関心を持つことができました。 |
和英辞典は,英和辞典や英英辞典ほど必需品ではありませんが,英作文の際や,英語で手紙を書いたりする際には重宝します。英語学習者が和英辞典を選ぶ際に注意すべきことは,例文が多く,説明の詳しいものを選ぶということです。小型辞書にみられるような,単に日本語に対応する英単語を示しただけの和英辞典なら,使わない方がましです。同じことは,高校生用英和辞典の巻末に付録でついてくる和英索引にも言えます。これは,和英索引であり,和英辞典ではありません。
和英辞典を新しく買おうと思っている人は,以下のものの中から選ぶことをおすすめします。ただ,いずれの和英辞典にも言えますが,和英辞典は,日本語に当てはまる英語の単語を示した,道しるべ的なものにすぎないことを知っておいてください。そのため,和英辞典に載っている英語の訳語をそのまま使うと,思わぬミスの原因になります。和英辞典を引くときは,面倒がらずに,英和辞典で引き直し,文型やスピーチレベルなどを確認してから使ってください。電子辞書なら,和英辞典で引いた訳語を,ワンタッチで英和辞典に移って再検索してくれる(ジャンプ機能)ので,便利ですよ。
収録語数は少ないですが,従来の和英辞書と異なり,口語表現や日本独特の事物などを積極的に掲載しています。高校生,大学生が日常的に接する話題の例文が多いので,英作文には非常に便利です。他辞書の記述に引きずられるのでなく,編集主幹の山岸先生が長年思い描いていた理想的な和英辞典の姿を形にした温もりのある和英辞典であり,和英辞典の質の向上に大きく貢献した辞書と言えます。
和英辞典の中に英和辞典を組み込んだ,「ハイブリッド方式」を初めて採用し,話題を呼んでいる辞書です。収録語数は少ないですが,「ジーニアス英和辞典」の内容を和英辞典の記述の中に盛り込んでいるので,英和辞典を引き直さなくても使えるのが魅力です。使い方次第では,和英辞典としてだけでなく,英語類語辞典としても使えます。ただ,ジーニアス英和辞典の内容を機械的に裏返した(英和の訳語部分を和英の見出し語にして)ものがベースになっているので,用例が他の学習和英辞典にくらべれば少ないなどのデメリットもあります。第2版になって,基本語については思いきってページを割き,訳語の使い分けを詳しく説明するなど,「類語解説辞典」としても通用する内容に進化しました。
※ 電子辞書版,CD-ROM版あり(「ジーニアス英和辞典」の項を参照)。
ただ英語の訳語を羅列するだけでなく,それぞれの語のニュアンスの違いなどにも言及しています。随所で,日本語と英語を比較し,英語学習者が誤りやすい点を丁寧に解説しているので,自然な英語を書く上で役立ちます。数十項目にも及ぶ囲み記事もユニークです。
通常サイズの国語辞典とほぼ同じ,約7万語を収録した和英辞典です。収録語数が多いぶん,例文や用法の解説は若干少なめですが,かなり専門的な語でも掲載されているので,留学等で,英語を書く機会の多い人には手放せない辞書です。
※電子辞書版あり(小学館SG-RH1000)
日本人が,自分のことや日本のことを英語国民に発信するという点にこだわった上級学習和英辞典の新顔です。日本文化に関する見出し語や都道府県名などは,単体の日本文化辞典に匹敵するほどの詳しい説明がされていますので,留学先で日本について説明するときなどには重宝するでしょう。日本文化の特徴として海外でも最近注目されているアニメのタイトルも見出し語にするなど,他の上級和英辞典にない個性を持った辞書です。
和英辞典では唯一の大辞典で,約30年ぶりに大改訂されました。用例は,まず日本語を専門とする執筆者が書き,その英訳文を英語が専門の執筆者やネイティブ・スピーカーが書くという方式をとっています。そのため,不自然な日本語が排除され,日本語のコロケーション辞典としても耐えうる分量の豊富な用例が最大の特徴となっています。10000円以上しますので,皆さんが個人で買う性質のものではありませんが,専門用語を英語に直したりする際には図書館等で参照してください。
※CD-ROM版あり
英語辞書交際録(その2)−The New Horizon Ladder Dictionary−The New Horizon Ladder Dictionaryというペーパーバックの辞書が,私と英英辞書との“なれ初め”でした。確か,高校1年の冬休みごろだったと記憶しています。収録語数は10,000語弱なので,レベルの高い語はほとんど記載されていないのですが,例文が多く,また定義が非常に明快であることにひかれました。今思うと,高校に入ったばかりで辞書の知識など全くない若僧が洋書の英英辞書を買うというのは相当ませていたのでしょうが,幸いなことに(偶然にも?)この辞書は非英語国民向けに特別に編集されたものだったので,使いこなせなくて挫折するということはありませんでした。高校在学中は,『ライトハウス英和辞典』とあわせてこの英英辞書を肌身離さず愛用しました。『窓ぎわのトットちゃん』の英語版を,英英のみで読破したのもその頃です。高校の英語では,新出単語の意味を調べたり本文を和訳したりといった単調な作業が多くなり,それにつれて英語嫌いになる人も増えてきますが,私がそうならなかったのは,ひとえにこの英英辞書のおかげだと思います。英語を日本語に置きかえるという機械的な作業に加えて,英英辞書でパラフレーズ(言いかえ)をすることによって英語を学ぶことの新しい光を見いだした,と言っても過言ではないでしょう。初めて英英を使って以来,20年が過ぎようとしています。言語学の研究者,英語教員として英語教育に携わっている今では,10,000語そこそこの英英では全く歯がたちませんので,Longman Dictionary of English Language and Culture (LDELC), Oxford Advanced Learner's Dictionary (OALD), Collins COBUILD English Language Dictionary (COBUILD)などの学習英英辞書やネイティブ向けの英英辞典を必要に応じて比較対照しながら使っています。英和辞典の訳語の羅列がわずらわしく感じられ,英英を主に使うようになった今となっては,高校の頃,初めて英英辞書を使ったときに感じた新鮮な喜びがなつかしく感じられます。しかし,思えば,これほど英語に関心を持ち,大学で専攻しようと思ったのもひとえにThe New Horizon Ladder Dictionaryのおかげであるといえます。このたった1,000円の英英辞書1冊が私の英語への興味を引き出してくれ,ひいては私の進路選択にも一役買ってくれたのです。もし,あのときCODやPODといったネイティブ向けの難しい英英辞書を買っていたら,とても使いこなせなくて本棚でほこりをかぶっていたでしょうし,英語を専攻するなどということもなかったでしょう。 |
英英辞典は,いうまでもなく,英語を英語で説明した,いわば,私たちが使っている国語辞典の英語版のようなものです。英和辞典と違い,単語の「訳」が出ているわけではないので,難しそうに思うかもしれません。また,昔はともかく,今では,英語圏の辞書会社さえ参考資料にしているような,非常に優れた英和辞典が数多く出版されていますので,あえて英英辞典を使わなくても,英和で十分なのではないか,と感じるかもしれません。
しかし,英語を専門にする人となれば,話は別です。日本語を介在しないで,英語を英語のまま理解することは,英語力をつける上でも非常に大切なことです。といっても,留学でもしない限り,日本語のない,英語だけの環境に身をおくというのは難しいと思いますが,英英辞典を使えば,少なくとも辞書を引いている間はそれができるわけです。
意外と知られていないことですが,英英辞典には大きく分けて
A. ネイティブ向け英英辞典
B. 外国人学習者向け英英辞典
の2種類があります。Aは,私たちに置きかえていえば,国語辞典のようなもので,ある言語を母語にしている人が,あやふやな漢字(スペリング)を調べたり,細かな意味の違いを知りたいときに引くものです。OED (Oxford English Dictionary)などの専門家用の辞書はもちろん,丸善などの洋書コーナーにずらりと並んでいるペーパーバックの安価な(1000円前後で手に入ります)英英辞書は,この種類のものです。ネイティブ向けですから,外国人にとっては敷居が高く,かなり英語力のある人でも,使いこなすのは骨が折れます。よく,英英辞典を買ったけど,難しすぎて…という人がいますが,そのほとんどは,Aに属する英英辞書を,小さいからとか,安いからという理由で安易に買ったためだと思われます。
一方,Bは,英語圏の辞書会社が,英語を母語としない人たちのために,特別に作った英英辞典です。Aにくらべてシェアが少ないぶん,値段は高め(安いものでも3000円前後はします)ですが,英語学習者に対して特別な配慮がされているため,日本人でも,高校生程度の英語力があれば,十分使いこなせます。
その,「特別な配慮」の一つが,定義で使われる語彙を,約2000語〜3000語に制限している(統制語彙と言います)ということです。英英辞典は難しい,といわれる最大の原因は,説明に使われている単語が難しいということでしょう。ある単語を引いて,語義で使われている単語が理解できないと,今度はその単語を引き直し,そこにも理解できない単語があると,またその単語を引き直す…ということ(孫引き)をくり返すため,英英辞書を引くのが嫌になってしまった人はたくさんいます。外国人向けの英英辞典では,どんなに難しい単語でも,統制語彙(そのほとんどは,高校までに学習した単語です)のみを使って説明していますので,大学生の皆さんなら,十分理解することができるわけです。
ネイティブ向け辞書と外国人学習者向け辞書の難しさの違いを,dogという語の定義を比較してみてみましょう。
(ネイティブ向け英英辞典の場合)
dog: a domesticated canid bred in many varieties. (Random House Webster's Unabridged Dictionary 2nd Edition)
(外国人向け英英辞典の場合・タイプ1)
dog: a common animal with four legs. Dogs are often kept by human beings as pets. (Oxford Advanced Learner's Dictionary 5th Edition)
(外国人向け英英辞典の場合・タイプ2)
dog: A dog is a very common four-legged animal that is often kept by people as a pet. (Collins COBUILD English Dictionary)
どうでしょう? 同じdogという単語でも,辞書によってこれほど異なっているのです。ネイティブ向けの辞書では,domesticated「飼い慣らされた」,canid「イヌ科の動物」,bred(breed「繁殖する」の過去分詞)などと,難しい単語が立て続けに使われていて,初めて英英辞典を使う人には,何のことかさっぱり分からないと思います。
一方,外国人向け辞書の定義は,同じ単語の説明かと疑うぐらい,非常に分かりやすく書かれており,皆さんの英語力なら,ぱっと見ただけで「犬のことだ」と分かると思います。外国人向け英英辞書には,タイプ1のように,句で書かれているものと,タイプ2のように,文章で書かれているものがあります。タイプ1は,ネイティブ向けの英英辞典と同じスタイルなので,今後,ネイティブ向けの辞書を使う際にも戸惑わないと思います。一方,タイプ2は,文章になっていることもあり,ネイティブスピーカーが目の前で語りかけてくれるような臨場感があります。どちらがいいかは好みの問題ですが,今後,ネイティブ向けの英英辞典も使っていきたいと考えている人にとっては,タイプ1の辞書を選んだ方が無難でしょう。
挫折しないための大原則「知らない単語をいきなり英英辞典でひかないこと!」
=「知らない単語はまず英和辞典で調べ,意味を知ってから英英辞典でひくこと!」
慣れるまでは,英英辞典を「英和辞典の代用品」としては使わないようにしましょう。言い方を変えれば,英英辞典を使うときは,必ず英和辞典も用意しましょう,ということです。知らない単語は,最初に英和辞典で意味を調べ,「知っている」状態にしてから英英辞典でひくようにしましょう。この大原則さえ忘れなければ,英英辞典を買ったお金に見合うだけの(使い方次第ではその何倍もの)英語力がつくことを保証します。
もしあなたの手元に学習用の英英辞典があったら,以下のステップに従って,実際に英英辞典をひいてみてください。※英語母語話者向けの英英辞典ではうまくいかない場合が多いので注意してください。
皆さんの持っている英英辞典で,polemicという単語(=皆さんがおそらく知らない単語)をひき,(英和辞典を引かないで)その意味を日本語1語で書いてください。
polemic: a written or spoken statement that strongly criticizes or defends a particular idea, opinion, or person
上の定義は,外国人向け英英辞典の1つであるLongman Dictionary of Contemporary English (LDOCE)のものですが,外国人向けの定義とはいえ,まったく意味の知らない単語の定義を読むのがいかに大変で苦痛か,実感できるのではないでしょうか? 仮にこの定義を「書かれた,あるいは話された陳述で,特定の考えや意見を,強く批判したり,擁護したりしたもの」のように,的確に理解できたとしても,これだけでは「中傷」「反論」など,色々な解釈ができるので,漠然としてよく分からないと思います。しかし,英和辞典を引けば,すぐに「激論」「論争」「論戦」といった訳が出てきます。
このように,知らない単語をひく,つまり,英和辞典の代用品として英英辞典を使うと非常に時間がかかり,結局は英英辞典をひくのは面倒だ,難しいとなってしまいます。初めて英英辞典を使って挫折し,二度と使わなくなるというのは,こういうケースが多いのではないでしょうか?
次に,皆さんがよく知っている単語をひいてみましょう。ここでは,yell(叫ぶ),giraffe(キリン)の2つを例にあげます。
yell: to give a loud sharp cry or cries as of pain, excitement, anger, etc
giraffe: an African animal with a very long neck and legs, and dark spots on its coat.
単語の意味をすでに知っているので,定義も分かりやすいのではないでしょうか? "Polemic"をひいたときと異なり,日本語で意味を知っているぶん,余裕が出てきます。そんな余裕があると,定義から意外な発見をすることができます。
(意外な発見の例)
「yellは,「エールをおくる」というような表現からも分かるように,試合の応援などで興奮して「叫ぶ」という意味だと思っていたが,「痛み」や「怒り」で大声をあげるときにも使える」
「声が大きい,というときに用いられる形容詞はloudである」
「キリンは,首が長いだけでなく,足も長い」
「キリンの「斑点」はspotという。それなら,部屋の壁などにできた雨漏りのシミも,似たようなものだからspotが使えそうだ」
他にももっと発見があるかもしれません。たった2つの単語を英英でひいただけで,これだけの発見があるのです。英和辞典や受験用の単語集で「yell = 叫ぶ」,「giraffe = キリン」と覚えていた頃とは雲泥の差があります。言い換えれば,英英辞典には,英和辞典を使っていては得られない「おまけ」がたくさんついてくるのです。皆さんが英英辞典からもらった「おまけ」は,その場だけでなく,今後ずっと,皆さんが英語を使う際の役にたちます。例えば,英作文で,自分の飼っている「ぶちの猫」を英語で言いたいときがあったら,ぶち=斑点だから,spotが使えるぞ,とピンとくるでしょう。そして,My cat which has black spotsなどという言い方が自然に出てくるでしょう。「キリン」をひくことによって,一見無関係な,自分の飼い猫のことまで表現できる英語力が自然とつく,これが英英辞典を使う醍醐味です。英英辞典を使うことにより,英語を読む力だけでなく,英語を書く力や話す力でさえも身につけることができるのです。英語を話す力をつける方法は,何も英会話に限ったことではないということを知っておいてください。もちろん,実際にネイティブと話したり,発音を練習することも,英会話には大切な要素です。でも,いくら発音が上手でも,言いたいことが口をついて出てこなければ,会話にはなりません。
以下のようなことを調べたいとき,今までの皆さんはどうしていましたか?
「タコの8本ある足を英語で言うと? Leg? Foot?」
英英辞典を使えば簡単です。タコの「足」を知りたいときは,「足」でなく,「タコ」をひいてみてください。
octopus: a sea creature with eight tentacles (=arms)
などと書いてあります。タコの足はlegでもfootでもなく,tentacle(一般的な単語ならarm)と言うのだということが分かります。「おまけ」として,creature(生物)という単語も学べます。Animalとどう違うのか,と思った人は,ついでにanimalもひいてみてください。
このように,知りたいものそのもの(「足」)を辞書で調べるのでなく,知りたいものに関係のある単語(「タコ」)をひくことにより,英英辞典を和英辞典のかわりに使うこともできます。日本人が作った和英辞典と異なり,英英辞典はすべて英語のネイティブ・スピーカーが書いているので,信頼性も抜群です。ただ単に日本語の英訳が載っている和英辞典と異なり,英英辞典では先ほどふれたような,様々な「おまけ」をゲットできるのも大きなポイントです。そして,何と言っても,「タコの足」を知りたいときは,どの単語をひけば載っているだろうか,と考えなくてはならないので,単語を調べる,という作業も,少しは能動的なものになります。
同様に,以下のことも英英を使って調べてみましょう。
(1)「犬や猫の足を英語で言うと? Leg? Foot?」
(2)「象の鼻を英語で言うと? Nose?」
(3)「カンガルーの腹にある,子供を保護するための袋を英語で言うと? Pocket? Bag?」
(4)「カニやエビの「はさみ」は何て言うのですか? Scissors?」
(5)「ラクダのこぶを英語で言うと? Bump?」
(6)「サイコロの目を英語で言うと? Eye?」
(7)「ジョークを飛ばす,を英語で言うと? Fly jokes? Say jokes?」
(8)「歯と歯の間に物がはさまる,を英語で言うと?」
(参考:磐崎弘貞著 「英英辞典活用マニュアル」(大修館書店)
以下に,外国人学習者向け英英辞典をいくつか紹介します。どれを選んだらいいか分からないという人もいると思いますが,選ぶ際には,上記で扱った単語や,中学校で習うような基本的な単語を,名詞,動詞,形容詞,それぞれいくつか引いてみて(たとえば,dog, begin, beautifulなど),一番分かりやすいと思うものを購入すればいいでしょう。英英辞典は,英和辞典にくらべればマイナーな存在なので,どこの書店にも売っているというわけではありません。都心部の大きな書店をあたってみてください。
OALDは,今から50年以上も前にA.S. Hornby氏の編纂したIdiomatic Syntactic English Dictionary (ISED)という辞書が母体で,学習英英辞書の草分け的存在です。昔のOALDは文型表記が分かりにくく,とっつきにくかったのですが,最近の版ではLDOCEにならって統制語彙(定義で用いる単語を限定している)を採用したので,昔のOALDにくらべて語義も分かりやすくなりました。特に最新の第6版は統制語彙の数が3500語から3000語になり,とても分かりやすくできています。基本2000語で定義されているLDOCEよりも統制語彙は多いのですが,その分より精密な定義がされています(たとえば,colourの定義を比較してみてください)。まもなく改訂され,第7版が発売予定です。
※ Windows対応CD-ROM版あり。
※ 電子辞書版あり(各社多数)
今からもう25年近く前になりますが,OALDが事実上独占していた外国人学習者用英英辞典の市場に,すい星のように登場したのがLDOCEです。単なる単語の言いかえでなく,意味分析を元にした語義記述や,約2000語の統制語彙(controlled vocabulary)の採用などは,今でこそ珍しくも何ともありませんが,当時は非常に画期的でした。今までの英英辞典で大きな問題となっていた点の1つに,語義で用いられる単語が難解で,孫引きをしないと使えない,という点がありましたが,統制語彙により,基本2000語ですべての語義が定義されているLDOCEなら安心です。初版は,アルファベットと数字の組み合わせで書かれた文法表記等,一般の学習者にはとっつきにくいところがありましたが,Longman社独自の地道なユーザー調査が功を奏してか,版を重ねるにつれて,初学者でも使いやすいものに仕上がっています。今年改訂された第4版では,本文がフルカラーになり,図版はもちろん,重要語を色刷りで表示するなど,格段に見やすくなりました。同梱のCD-ROM版は,後述のLongman Language Activatorの内容も盛り込まれており,付属ソフトとは思えない出来映えです。
※ Windows対応CD-ROM版あり
英語辞書交際録(その3)−Longman Dictionary of Contemporary English−「その2」でふれたThe New Horizon Ladder Dictionaryは高校1年生の私でも十分理解できる内容で,肌身離さず使っていました。そんなとき,書店で「英語の辞書を使いこなす」(笠島準一著 講談社現代新書)という本を見つけました。私が生まれて初めて買った新書であり,何となく大人になったような気がしたものですが,この本は高校1年生の私にも十分理解できるほど平易で,しかも例や失敗談をふんだんにとりいれて,英語の辞書(英和,和英,英英)の使い方が説明されていました。「英語の辞書を使いこなす」は今でも版を重ねている名著ですが,私自身,この本から多くを学びました。社会言語学が専門の今でも,アマチュアの立場から辞書学に関心をよせ,このような拙稿を書いているのも「英語の辞書を使いこなす」の影響が大きいと思います。 この本の中で最も印象的だったのは,英英辞典にはネイティブ向けと学習者向けの2種類がある,という記述で,具体的な引用例をあげながら,これらの2種類の辞書の違いが説明されていました。中でもLDOCE (Longman Dictionary of Contemporary English)という学習英英辞書は,私でも十分理解できるような平易な定義で,しかも収録語数は通常の学習英和辞典なみにあるということが解説されており,興味を持ちました。The New Horizon Ladder Dictionaryの唯一の欠点は,語数が非常に少ないことで,高校の教科書の単語でさえも載っていないものが多く,ふだんの予習では力不足だったからです。 翌週の日曜日,通っていた塾の中にある書店でLDOCE(当時は第2版が出たばかりでした)を見つけました。早速買おうと思ったのですが,定価が当時の値段で3800円もしたので,とても高校生の私に手が出るものではありませんでした。英語以外に学ぶ科目も多く,しかも得意科目にそんな大金はかけられないので,LDOCEは毎週1回塾へ行ったついでに書店に寄り,立ち読みするのが精一杯でした。 「大学へ行き,アルバイトを始めたら自分用のLDOCEを買おう。そうすれば,英語力が飛躍的につくに違いない」と心に決め,毎週毎週名古屋に出かけ,LDOCEを立ち読みしていたのも今となっては懐かしく思われます。後にも先にも,これほどまで欲しいと思った辞書はLDOCEしかありません。そして,英語を専門に学び,念願だった英語教師にもなった今,はたして当時のような純粋な気持ちで英語と向き合っているのだろうか,と自問自答することもしばしばです。余談ですが,大学に入学してすぐ,学内の売店で念願のLDOCEを手にいれました。LDOCEを初めて立ち読みしてから3年近くがたっていました。後日追加購入した同内容のLDOCEハンディー版とあわせ,まさに身体の一部のように使い込んだことは言うまでもありません。 LDOCEの初版が出てから,四半世紀が過ぎました。私が高校生の頃は,高校生で英英辞典を使っている人は少なかったこともあり,英英辞典を使うことにあこがれと自信を感じたものでしたが,最近ではほとんどの電子辞書に英英辞典が搭載され,誰でも引くことができるようになりました。英英辞典が身近になった現実を嬉しく思う反面,昔のように英英にあこがれの念を抱く英語学習者は少なくなってきているような気がしてなりません。 |
COBUILD(コウビルド)とはCOllins Birmingham University International Language Databaseの略で,4億語をこえるBank of Englishというコーパスをフルに用いた辞書です。そのため,学習者用といっても,記述の密度は非常に高く,研究用として内外の英語学者も使っています。他の辞書と異なり,いわゆる文定義を全面的に採用しているので,慣れないうちは違和感がありますが…。例文はすべてがBank of Englishからの抜粋(作例はない)なので,特殊な固有名詞が使われていたり,文脈が分かりにくかったりすることもありますが,すべての例文は1990年代後半に実際のメディア(新聞,本,パンフレットなど)で使われたものなので,生きた英語にふれたい人にはぴったりでしょう。昨年改訂された第4版では,本文が色刷りになり,カラー図版が追加されるなど,昔のCOBUILDにくらべればとっつきやすくなりました。しかし,文法表記の記号が多いなど,初心者にはまだまだ敷居が高い辞書であることは事実です。また,改訂に伴い,用例がかなり減っていることは,教員や専門家の間では不満に感じるかもしれません。
※ Windows対応CD-ROM版あり。
※ 電子辞書版あり(SII SR-T6700など)
1995年に,英語教育の老舗ケンブリッジ大学出版局から発行された初めての外国人用英英辞書を全面改訂し,書名も変更して新たに出た辞書です。後発の辞書だけあって,LDOCEやCOBUILDなどの「おいしいところ」を吸収するとともに,類書に見られない新機軸も盛りこんでいます。たとえば,多義語の場合,従来の辞書のように,1つの見出し語の中で1, 2, 3…のように細分化するのをやめ,意味の核(core meaning)をguide wordとして最初に提示し,core meaningごとに見出し語をたてています。そのため,例えばtakeという見出し語がいくつも連続していたりします。慣れるまでは奇妙ですが,従来の方式に比べて求める意味を探しやすいのは事実です。また,他の学習英英にくらべて用例が多く,語義よりも用例で語らせるというスタンスの辞書です。
※ Windows対応CD-ROM版あり。
(2)で紹介したLDOCEをベースに,約15000語の固有名詞を増強した英英辞典です。映画のタイトル,現在活躍中の人も含めた豊富な人名,地名,商品名などが掲載されているので,読むだけでも楽しい辞書であると言えます。ただし,ベースになっているLDOCEは,第2版(現行の第4版ではありません)なので,文法コードなどの記号が現行のLDOCEよりも多く,日本語で書かれた解説冊子がついていないこともあり,慣れないと面食らいます。
※ Windows対応CD-ROM版あり。
(2)で紹介したLDOCEのアメリカ英語版です。用例の多くはアメリカ英語のコーパスをもとにして書き換えられ,アメリカだけで用いられる口語表現も豊富に収録されています。LDOCEを活用している人で,アメリカ英語を重視した英英辞典がほしい人には最適です。
※ 電子辞書版あり(カシオ XD-LP9200他)
英語辞書交際録(その4)−Oxford English Dictionary−高校時代に最も影響を受けた辞書が,ライトハウス英和とLDOCEであったことは先にもふれましたが,OEDは大学に入ってから最も影響を受けた辞書の一つであると言えます。いや,厳密には大学に入る前から,というべきでしょう。 私が受験(し入学)した名古屋学院大学は,大学の図書館が入試当日の父兄控室になっていました。本来受験生は入っていけないのでしょうが,私は入試日の昼休みに図書館に入り,参考図書の棚を何気なく眺めていました。こういう受験生はあまり例がないのでしょうか,この話を友人にしたら「ふつう,入試の昼休みは次の試験科目の勉強をするか,勉強はすっかり忘れて雑談をしたりしない? 入試以外の「勉強」を入試の日にするというのも珍しいね」と笑われましたが。 ともかく,参考図書の棚でふと目に止まったのが,書棚一段を丸ごと占拠して鎮座するOEDでした。背革装で三方金という豪華な装丁からして,英語学や辞書学など何も知らないタダの受験生の私にでも,なんかすごい辞書だな,ということぐらいは分かりました。手に取ってみたのですが,何が書いてあるかさっぱり分かりません。唯一分かったのは,この辞書はとんでもなく大きい英英辞典なんだ,ということだけです。それでも,受験生の,それも英米語学科を志望している受験生の私にとっては,LDOCEの時のような新鮮な願望を感じました。LDOCEなら,今でもだいたいは理解できるのだから,次はOEDを使えるようになりたい,大学の英米語学科に入れば,それができる,と思ったわけです。休憩時間ぎりぎりまでOEDを眺め,入試の続きを受けましたが,今までと違い,「受けさせられる」というよりは,この試験でいい成績をとればOEDを使いこなすこともできる,という気持ちで受けられたと思います。 今思うと,OEDは歴史的原則に則り,歴史的に古い意味から順に並んでいたので,通常の英和,英英辞典のような頻度順配列になれていた私にはとても歯が立たなかったのは当然でしょう。大学へ入って,OEDの歴史や記述方法などを一通り知ってから,入試の時のようにOEDを手にとってみたら,入試の時とはまったく違い,すっと頭に入ってきたのです。そして,当時OEDがさっぱり理解できなかったのは,発音や表記,語義,引用例といった,OEDの様々な項目を区別しないで(できないで)ごちゃまぜにして見ていたからだ,ということも分かりました。 いったんコツを飲み込めば,OEDというのが実に面白い辞書であることが実感できました。今までは暗記の対象として機械的に覚えてきた多義語の意味などが,実際には英単語の長い人生の中で徐々に変化してきたんだということが分かり,単語1つ1つにもそれぞれ人間模様があるんだ,ということが感じられました。 幸か不幸か,OEDが身近に感じられるようになってきた頃から,私自身の興味が,いわゆる純粋な英語学,言語学というよりは,よりマクロな視点からことばをとらえる方へ移っていきました。そのため,今では研究上の必要でOEDをひくことがほとんどないというのは残念です。 |
類語辞典は,シソーラス(thesaurus)とも呼ばれています。シソーラスは,ある単語とほぼ同じ意味の単語(類義語)をリストアップしたもので,特に英語を書く際に役立ちます。英語は,日本語にくらべて同じ単語をくり返して用いることを好まないので,ある単語を似たような意味の別の語で言いかえる必要が,日本語以上に頻繁に生じます。皆さんの中で,日本語のシソーラスを使ったことのある人はほとんどいないのではないでしょうか。シソーラスというものがあることさえ知らなかった人が多いかと思います。しかし,英語国民にとって,シソーラスは聖書と同じく必需品です。そのため,英語圏の国では,書店はもちろん,空港内の売店やコンビニなどでもたいていシソーラスを売っています。
皆さんにとって,シソーラスは,英和辞典や英英辞典のように,すぐに買わないといけないというものではありませんが,とくに英語を専攻する人や,留学を予定している人は,今後,長文の英語を書く機会が増えてくるでしょうから,今のうちに予備知識として知っておいてください。
シソーラスには,ABC順配列のものと意味概念別分類のものの,大きく分けて2種類があります。これは,電話帳にたとえると五十音別電話帳(ハローページ)と,職業別電話帳(タウンページ)の違いのようなものです。
たとえば,「魚正」という魚屋の電話番号を知りたいとします。「魚正」という店名を知っていれば,ハローページで「う」の項を引くのが最も簡単です。しかし,店の名前がよく分からないときは,タウンページで「魚屋」という業種を探し,その中にある何軒かの魚屋から「魚正」を見つけだします。つまり,店の名前が分かっていればハローページ,業種が分かっていればタウンページというふうに使い分けています。
シソーラスについても同様です。ABC順配列のシソーラスは,電話帳で言うならハローページであり,電話番号(類義語)を知りたい店名(単語)が分かっている場合に使うものです。類義語を知りたい語を普通の辞書の要領で検索すると,その語の類義語が羅列されています。このタイプのシソーラスは,普通の辞書を使っている人なら,買ったその日から使えるので,非常に便利です。しかし,意味概念別分類のシソーラスと異なり,ある単語の類義語を知るという用途しかありません。
一方,意味概念別分類のシソーラスは,いわゆる英単語のタウンページであり,概念別に編集されています。たとえば,「果物」を表す英単語を知りたいときは,"fruit"という意味概念のところを見ます。すると,strawberry, apple, orange…といった果物が一覧できるわけです。その数は膨大で,きっと今まで見たことも聞いたこともない果物の名前がたくさん出てくることでしょう。それらを英和や英英で調べてみるのも面白いものです。意味概念別分類のシソーラスでは,似たような意味概念が隣り合うようにして配列されています。そのため,「果物」が載っているページのすぐそばに,「野菜」という意味概念も見つかるはずです。このようにすると,単に類義語を調べるツールとしてだけでなく,英語を書く際に考えをまとめるための道具にもなりますし,英語教師なら,語彙指導や教材作成のリソースとしても使えます。
今お話ししたように,意味概念別分類のシソーラスは,「単語」というより「意味」という単位で類義語を配列しているので,どのような意味概念があるのかをある程度知っていないと使いこなせません。これではあまりにも不便なので,単にある単語の類義語を調べたい人たち用に,ある単語が何ページにあるかを示したアルファベット順のインデックスを,巻末に備えています。そのため,このインデックスを使ってある単語の掲載ページを知り,そのページを検索すれば,アルファベット順配列シソーラスのようにも使えます。しかし,一旦インデックスを引いて求める単語の記載ページを知り,そのページにアクセスし直す必要があるので,ABC順配列シソーラスよりも手間がかかります。
ABC配列のものにせよ,意味概念別分類のものにせよ,市場に出ているシソーラスの多くは,類義語を羅列しただけです。普通の辞書と違い,語義やスピーチレベルといった付加情報はほとんど記載されていません。このようなシソーラスは,英語母語話者が,もともと見聞きしたことのある類義語を思い出すための「道しるべ」となるのを目的に作られているので,単語だけ羅列すれば用が足りるからです。
しかし,私たちのような英語学習者にとっては,語義がついていないシソーラスはとても不便です。単語を羅列しただけでは,その単語がどういう文型で使われるか,またどんなスピーチレベルで用いられるか(インフォーマルな語か,フォーマルな語か),どちらの単語がより文脈にふさわしいか,といったことは分かりません。
そこで,最近では,語義の羅列でなく,英英辞典なみに語義やスピーチレベル,文型表記などを記載した英語学習者用シソーラスも,少数ではありますが発売されています。英語を母語としない私たちにとっては非常に重宝しますが,語義の記述があるぶん,収録語数はかなり少なくなり,10,000〜20,000語程度のものがほとんどです。
英作文に大変重宝する辞書です。単語を意味分類によってシソーラスのように並べ,それぞれのニュアンスや用法の差に重点をおいて丁寧に解説しています。通常の辞書は知らない単語をひくものですが,この辞書は,主に知っている単語をひくためのものであるという点が特徴です。独特の配列になっているので,初めのうちは使いにくく感じるでしょうが,慣れてしまえば私たちにとってこの上もない武器となってくれます。
次に述べるLongman Lexicon of Contemporary Englishもこれと似たようなものですが,Activatorは話し,書くという発信的要素に限定し,具体名詞等を極力カットしたかわりに,コーパスをもとにした生き生きとした最新の用例を増強し,口語表現も積極的にとりいれているのに対し,Lexiconは伝統的な意味概念別分類のシソーラスを踏襲した,オールマイティーな編集となっています。
※ 電子辞書版あり(カシオXD-LP7000)
LDOCEの中から重要な語を選び,関連語群別にグループ分けして語義を示したもの(意味概念別に分類されたシソーラスの一種)です。似たような意味を持つ語がひとまとめになっていて,それぞれの意味が基本2,000語で定義されているので,単語間の細かなニュアンスや用法の違いを知るのに最適です。これを使っていると知らず知らずのうちに語い力がアップし,英語的なセンスも身についていきます。日本ではあまり知られていなくて値段も高い(4,000円ぐらい)ですが,1冊持っていると本当に重宝します。
Word Menuは主題別事典とでも言うべきもので,経済学用語辞典,物理学用語辞典といった,あらゆる分野の専門用語辞典を簡略化して寄せ集め,レストランのメニューのような分野別目次とアルファベット順索引をつけたものです。専門用語辞典(glossary)は高価で,説明も難解なものが多いのですが,Word Menuは様々な分野の重要語(主に名詞)に絞って簡潔に説明しているので,留学等で未知の分野を学ぶ際の予習用としても最適です。
この辞書を使いこなすと,普通の辞書では手に負えないような事柄も簡単に解決します。例えば,理系の人で元素名の英訳を知りたい場合,水素(hydrogen)や亜鉛(zinc)ぐらいなら和英辞書をひけばいいのですが,ルテチウム(lutetium)やローレンシウム(lawrencium)といった場合は和英にも掲載されていません。そんなときは,巻頭のメニューからsciences→chemistry→elementとたどっていけば,たちまち103元素の一覧が現れます。あるいは,「○○マニア」を表す語(心理学用語)の種類を知りたければ,social sciences→psychology→maniasでOKです。もちろん,maniaを単語索引でひいても得られます。
意味概念別シソーラスの代表的なものです。250000語以上を収録しているので,たいていの単語は入っていますが,先にもふれたように,類義語が羅列してあるだけなので,それぞれの語のニュアンスの違いなどは分かりません。皆さんがすぐ購入する必要はありませんが,大学の図書館にはたいてい入っているので,必要なときに参照してください。
コロケーション辞典は,電子辞書の普及により知られるようになった辞書の一つであり,単語と単語の結びつき(コロケーション)を示した辞書です。たとえば,「腐った牛乳」「腐ったバター」と英語で言いたいとき,前者はsour milk,後者はrancid butterという言い方をすることが多いです。「腐った」という意味は同じであるのに,*rancid milk, *sour butterとは通常は言いません。このように,文法などで説明がしにくい,慣用的な語の組み合わせは,母語話者であれば無意識のうちに習得していますが,外国人にとっては上級レベルの学習者でも非常に難しいものです。このようなときは,コロケーション辞典を引くと便利です。たとえば,butterを引くと,butterとともに用いられる(共起する)語が品詞別にリストされています。上述の例なら,形容詞のところを見ると,rancid butterという組み合わせが出ているので,「腐ったバター」というときはrancidを使うということが分かります。もちろん,badを使えばバターでも,牛乳でも意味は通りますが,よりネイティブに近い表現をしたい場合はコロケーション辞典が役に立ちます。コロケーションを身につけることで,日常的なことをより幅広く表現することが可能になります。
なお,大学生協モデルや英語上級者向けの電子辞書には,以下に紹介する2冊のコロケーション辞典のいずれか(または両方)が収録されていますが,電子辞書版は紙辞書版に加えて,見出し語以外からの検索もできます。紙版のコロケーション辞典は,名詞を手がかりに,その名詞と共起する動詞や前置詞,形容詞を引くものですから,名詞から引くことはできても,動詞,形容詞などから引くことができません。しかし,電子辞書版なら,コロケーション検索機能を使うことで,以下のように紙辞書では不可能な検索もできます。
・連語検索で「動詞+名詞」を指定して,キーワードに「動詞」を入れる→「その動詞がとる目的語にはどういうものがあるか」がわかります。
・連語検索で「動詞+名詞」を指定して,キーワードに「名詞」を入れる→「その名詞にはどういう動詞が共起するか」がわかります。たとえば,「スープを飲む」場合は,eatを使い,drink
soupとは言わないと受験英語などでは教えていますが,soupをキーワードにして「動詞+名詞」のパターンで検索すると,実際には(スプーンなどを使わずに直接飲む場合は)drink
soupとも言うことが分かります。
・連語検索で「名詞+動詞」を指定して,キーワードに「動詞」を入れる→「その動詞の主語にはどういうもの(人か,物か…)がくるか」がわかります。
・連語検索で「名詞+動詞」を指定して,キーワードに「名詞」を入れる→「その名詞が主語の場合,どういう動詞がくるか」がわかる。
・連語検索で「形容詞・名詞+名詞」を指定して,キーワードに「形容詞」を入れる→その形容詞と共起する名詞の種類(いわゆる選択制限)がわかります。たとえば,キーワードにrancidを入れると,名詞には,butter,
cheese, oilなどの油脂製品しかこないので,「バナナが腐る」ときには使えないことが分かります。逆に,キーワードに「名詞」を入れてやると,その名詞の「仲間」が表れる。たとえば,busを入れれば,○○busの種類が出る。
この辞書の前身は,勝俣銓吉郎氏が戦時中に集めた膨大なコロケーションをもとにしたものであり,日本の英語辞書史にも刻まれる名著です。長年改訂がされていませんでしたが,1995年に大改訂が行われ,当時の用例の半数以上が差し替えられました。合計38万という膨大な句例,用例は,日本で出版されている辞書はもちろん,英語圏の辞書でも1巻本では例がないのではないでしょうか。しかも,ほとんどすべての用例に日本語訳がついているので,英語を書くときだけでなく,翻訳の際にも非常に役立ちます。私自身,ある研究書の翻訳をした際,この辞書には非常に助けられました。ただ,勝俣氏が執筆した頃から数えると70年近くが経過し,大改訂からも10年がたっていますので,時として古めかしい例文にあたることもあります。受信用(翻訳など)に使うならともかく,発信用(ライティングなど)に使う際は,次にふれる(2)をまず参照したほうがいいかもしれません。
※ 電子辞書版あり(カシオXD-LP9300,SII SR-T7100,シャープPW-V8900,キヤノンWordtank G55など)
海外の出版社から外国人向けに出されたコロケーション辞典です。(1)と異なり,共起する語を羅列して,その中の一部に用例をつけていますので,用例の数ではとても(1)には及びません。当然,日本語訳もありませんので受信用には使えません。一方で,British National Corpusなどの大規模コーパスをもとに編纂されているので,内容的にも新しく,外国人が英語で表現する際に必要となる語を中心に選定していますので,私たちが日常の英語学習に使うにはこちらのほうが手頃です。
※ 電子辞書版あり(カシオXD-LP9300,SII SR-T7100,シャープPW-V8900,キヤノンWordtank G55など)