日本語を学ぶ外国人のための 電子辞書へのアプローチ

関山 健治(沖縄大学)
sekiyama.kenji@nifty.ne.jp
http://sekky.tripod.com

辞書関係コンテンツトップページへ戻る


★こんな時に電子辞書を…

ケース1:「『胃』という漢字はどう読むのでしょうか?」

日本人であれば,読めない漢字をひくときは,画数や部首を頼りに,冊子体の漢和辞典の総画索引(部首索引)でひくことができます。しかし,外国人にとっては部首や画数を頼りにすることは非常に困難です。

(電子辞書を使うと…)「部品検索」機能のついた漢字辞書(漢和辞書)を持つ機種なら簡単です。「胃」という漢字は「田」と「月」という部分に分けられるので,「た」「つき」というそれぞれの読みを入れるだけで,「胃」をひくことができます。「胃腸」「胃炎」などの熟語の意味もワンタッチでわかります。

ケース2:「『せつめい』(説明)の意味が知りたくて,国語辞典を引いたら,「事柄の内容や意味をよく分かるようにときあかすこと」と書いてありました。でも,今度は「事柄」の意味がわかりません。読めないので国語辞典でひくこともできません」

成人の日本人であれば,国語辞典の語義で使われている単語の意味が分からないということはまずないでしょう。仮に意味が分からなくても,読み方はわかるでしょうから,いわゆる「孫引き」は簡単です。しかし,外国人の場合,こういうことはしょっちゅうです。小中学生向けの,説明が易しい国語辞典を使えばいいのかもしれませんが,収録語数があまりにも少ないので,成人の日本語学習者にとって必要な単語が載っていないこともあります。

(電子辞書を使うと…)「スーパージャンピングサーチ」のできる電子辞書を使えば簡単です。「説明」を検索し,ジャンプキーを押してその語義の中にある「事柄」を反転させ,もう一度検索操作をします。すると,「事柄」という単語が検索されます。このように,スーパージャンピングサーチ機能を使うと,語義の中にある単語は,たとえ読み方がわからなくても引き直すことが簡単にできます。


★日本語学習者向けの電子辞書を選ぶポイント

冊子体辞書を丸ごと収録しているか?:留学生がよく使っている安い(1万円以下の)電子辞書は辞書というよりは単語集であり,外国人にはおすすめできません。

漢字の構成要素(部品)からひける漢字辞典がついているか?:ケース1のように,未知の漢字をひくときは,部品検索ができると便利です。

画面上のあらゆる単語(日本語を含め)にジャンプできる機能がついているか?:和英辞書から英和辞書へジャンプできる電子辞書は多いですが,国語辞典から国語辞典へのジャンプができる機種は非常に少ない(キャノンのもののみ)ので注意。

漢字を拡大して表示する機能(ズーム機能)がついているか?:電子辞書は,解像度の関係で,文字(特に漢字)を簡略化したフォントを使っています。そのため,正確な字形を知る上で困りますので,任意の行を拡大して正確な字形で表示する機能がついていると便利です。

国語辞典から和英辞典にジャンプできるか?:とくに欧米系(英語母語話者)の日本語学習者にとって重要な機能です。国語辞典の語義で意味の分からない語があった場合,「ケース2」のように国語辞典で孫引きするよりは,その語の英訳が出たほうが手っ取り早い(日本語学習上の効果はともかく)かもしれません。「スーパージャンピングサーチ」を備えた機種なら,ジャンプ先辞書(国語・和英)を選択できますので,国語辞典の中に現れた未知語の英訳を和英で簡単に調べられます。

★以上の条件を満たしている電子辞書を以下に紹介します。詳細は,メーカーのホームページや私の「電子辞書へのアプローチ」(本編)へのリンクをごらんください。


IDF-3000 (キャノン)

「電子辞書へのアプローチ」でのレビューはここをクリック

http://www.canon-sales.co.jp/WORDTANK/idf-3000.html

IDF-3000

外国人向けの電子辞書では定評のあるキャノンが発売している電子辞書です。最近の電子辞書のほとんどは国語辞典に広辞苑を採用していますが,IDF-3000は,主に高校生を対象としたスーパーアンカー英和,ニューアンカー和英に加え,用法の区別など,日本語を使う際に役立つ情報が充実した,学研の新国語辞典と漢字源(漢和辞典)をフル収録しています。「新国語辞典」は通常の(3000円ぐらいで売っている)国語辞典と同サイズで,収録語数こそ広辞苑には及ばないものの,語釈はこちらのほうがはるかにわかりやすいので,日本語学習者にとっては好都合です。キーを押すごとに候補が絞り込まれる,いわゆる絞り込み検索や,各辞書100語ずつ記憶できる単語帳機能(日本語学習に便利です),画面上のあらゆる単語にジャンプできるスーパージャンピングサーチ機能,部品引きのできる漢和辞典(もちろん,部首や音訓,総画数などからもひけます)など,外国人にとって必要な機能がすべて揃っています。押しやすいキーボードや大きな液晶画面(画面だけでなく文字も大きいので,表示文字数は画面サイズの割に少ないのが難点です)など,高級感がある割に値段は安く,20000円をきるぐらいで買えます。外国人で日本語を学んでいる人向けに最もおすすめできる機種です。


IDF-4000(キャノン)

「電子辞書へのアプローチ」でのレビューはここをクリック

http://www.canon-sales.co.jp/WORDTANK/idf-4000.html

キャノンのフルコンテンツタイプ電子辞書の第2弾です。収録辞書は,広辞苑(逆引き可。モノクロ2階調での図版表示も可),ジーニアス英和・和英,漢字源,(英語)類語辞典の5種類で,IDF-3000にくらべて収録語数が大幅に増えています。IDF-3000と同様に,外国人向けの機能はすべて備わっています。

そのほかにも,広辞苑をクロスワード解読ツールとして使えるワイルドカード検索など,日本人にとっても便利な機能が備わっています。厚さは他機種に比べてかなり薄く,シルバーとブルーのメタリック仕上げの外観とあわせ,機能だけでなく,デザインも現行のフルコンテンツ電子辞書の中ではトップクラスです。上級の学習者など広辞苑が必要な外国人はもちろん,教員にとっても役立ちます。


XD-S1200(カシオ)

「電子辞書へのアプローチ」でのレビューはここをクリック

http://www.casio.co.jp/d-stationery/exword/xds1200.htm

この機種は,外国人向けの機能(スーパージャンピングサーチ,部品引きの漢和辞典)はついていませんが,新明解国語辞典(各単語のアクセント位置がわかるので地方出身の日本語教師には重宝します)や古語辞典を内蔵している唯一の電子辞書です。日本文学を専攻する上級日本語学習者や日本事情を担当する日本語教師に最適です。もちろん,英和,和英(ジーニアス)も入っているので,媒介語で授業をする機会の多い日本語教師にもおすすめです。


RM-2000(セイコー)

http://www.sii.co.jp/cp/rm2000.html

外国人向け日本語辞典を電子化した第一号機です。電子辞書の老舗であるセイコーインスツルメンツらしい製品で,このような特殊な電子辞書は他社はまず作らないのではないでしょうか。内容的には,研究社のローマ字版日英語辞典がフル収録されています。普通の英和辞典と違い,訳語がローマ字と漢字の両方ででてくるのがウリです。アクセント位置も表示されます。20000例の用例検索などもできるので,日本語教師にとっても授業で使う例文を探す際の簡易コーパスとして使えると思います。欧米系の学習者(英語を母語,第二言語にしている人)には重宝すると思います。