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電子辞書の歴史とこれから
関山 健治(沖縄大学)
sekiyama.kenji@nifty.ne.jp
電子辞書の第一世代:カタカナ表示の「電子化された単語集」
電子辞書というと最近の製品のように思えますが,ルーツは意外と古く,国産第一号機(IQ-3000)は1979年11月にシャープから発売されました(右の写真は当時の新聞広告です)。収録語数は英和が2800語,和英が5000語で,受験用単語集に毛が生えた程度の語数です。画面は16桁×1行の液晶ドットマトリックス表示で,日本語訳はカタカナで表示されました。
現在の電子辞書は,2000円前後で手に入る最も安い機種でさえ,漢字仮名交じり表示ができ,収録語数も40000語近くはありますので,IQ-3000のスペックはおもちゃのようなものに感じるでしょうが,当時は電卓でさえ液晶画面を搭載した機種は少なかったことや,ポケコンはおろか,当時20万円近くしたパソコン(その頃はマイコンと読んでいましたが)でも数千語の英単語と意味を登録するデータベースを構築することは外部記憶装置を増設でもしない限り不可能だったのですから,手のひらサイズでいつでも辞書が引けるIQ-3000が,わずか40000円で手にはいるというのはとんでもなく先進的なことであったと言えます。IQ-3000は,「電子辞書」ではなく「電訳機」と呼ばれていたことからしても,紙の辞書の代わりになることをめざしていたわけではないのでしょうが,それでも,海外出張や海外旅行へ行こうとしている人にとってはわずか2800語でも非常に重宝したのではないでしょうか。
私の勘ぐりかもしれませんが,当時は今ほど「英語熱」が盛んでなく,電子辞書の需要も今ほどはなかったことや,大学受験レベルでも心許ない収録語数しかないのに中学生,高校生にはとても手が出ない価格であったりということをふまえても,IQ-3000の発売が本当に採算のとれたのかどうか疑問です。もしかしたら,IQ-3000は,「電訳機」という製品としてよりも,カタカナ表示や大容量ROM,見やすい液晶画面に水銀電池の採用による長い電池寿命など,1980年代のシャープ製品に採用されるであろう技術を集大成した,いわば技術サンプルのような位置づけがあったのかもしれません。以後,電子辞書に関しては1997年のPW-5000までシャープからは目立った製品が登場しませんが,IQ-3000で培った数々の先進技術は,改良を重ねながら,ポケコンや電子手帳,大画面液晶のパーソナルワープロなど,1980年代のシャープのヒット製品に次々と採用されていきました。
電子辞書の第二世代:漢字仮名交じり表示と収録語数の増加
IC辞書の第二世代は,高校生用の紙の辞書とほぼ同等の語数を収録し,訳語が漢字仮名まじりで表示されるタイプであると言えます。このタイプの電子辞書は,1987年の春にサンヨーから40000円前後で発売された「電字林」(写真)がその筆頭です。電字林は,ほぼ高校初級用の英和辞典なみの約35000語を収録し,訳語が漢字仮名まじりで表示されるという,当時としては大変画期的なものでした。今でこそ,漢字表示される電子辞書は珍しくも何ともありませんが,当時は,電子手帳はおろか,ワープロ専用機やパソコンでさえ,やっとJIS第二水準までの漢字表示が標準になったころだということを考えると,電字林のスペックがいかに先駆的であったか,お分かりいただけると思います。英和のみが標準装備で,和英は別売りのICカードで追加することができました。
35000語収録されていれば,通常の英文読解には十分対応できるため,ようやく電子辞書が実用的になってきた感がありました。しかし,電字林も,しょせんは「辞書なみの収録語数を持つ単語集」の域を出ておらず,例文やスピーチレベル,文型といった,訳語以外の情報は一切カットされていたので,とくに専門的に英語に携わっている人にとっては物足りないものでした。また,大きさも,今のミニノートパソコンぐらいはあり,電池も十数時間しか持たないので,どこへでも持ち運ぶというわけにはいきませんでした。
電字林に代表される第二世代の電子辞書は,以後,電子手帳の英和・和英ICカードなどにも採用されていきますが,次にあげる「フルコンテンツ電子辞書」の登場により,ハイエンドの電子辞書としての役目は終えたと言えるでしょう。しかし,「漢字仮名交じり表示」「高校生向け辞書程度の収録語数」「訳語のみを表示」という電字林のコンセプトは,現在でも,いわゆる「非フルコンテンツ電子辞書」にはそのまま受け継がれています。電字林とは比較にならないほど小さく,軽くなり,値段も10分の1ぐらいになって売られている最近の安い電子辞書も,基本スペックは電字林と大して変わりません。
ちなみに,発売当時高校生だった私は,電字林をまさに肌身離さず愛用していました。その頃の英語力では,外国人向けの易しいペーパーバック(講談社英語文庫など)でさえ,しょっちゅう辞書を引かなければ読めなかったのですが,電字林のおかげで辞書を引く面倒くささがなくなり,英語を読む楽しさを知ったような気がします。以後,大学で英語を専攻し,言語学の研究者として,英語で飯を食べられるようになったのも,電字林があったからだといっても過言ではありません。
大器晩成!? 電子ブックプレーヤーの登場
1990年に,ソニーが電子ブックプレーヤーの第一号機(DD-1)を発売しました。電子ブックプレーヤーは,8センチCD-ROM(CDシングルと同サイズ)のを,3.5インチフロッピーディスクとほぼ同サイズのケース(キャディー)に収納した電子ブックというメディアを再生する装置で,CDウォークマンに液晶ディスプレイとキーボードを付けたようなものです。当時は,パソコンでもCD-ROMドライブは高級品であり,ハードディスクでさえ100MBをこえるような容量のものは一般の人が簡単に買えるような値段ではなかったのですから,わずか59800円で,1枚約200MBの情報を収録した電子ブックを再生できるDD-1のスペックは夢のようなものであったと言えます。
電子ブックにより,冊子体の辞書を丸ごと収録することも可能になり,DD-1にはニューセンチュリー英和+新クラウン和英という高校生用の英和・和英のフルテキストを収録したソフトが付属していました。DD-1こそが業界初のフルコンテンツ電子辞書であり,そのスペックからも大ヒット商品になってもおかしくなかったと思いますが,時期尚早だったようで,思ったほどは注目されなかったようです。原因のひとつは,当時は電子ブックソフトが少なく,しかも高価であったことなのではないでしょうか。「ディスクを入れ替えるだけで複数の辞書が引ける」といううたい文句でしたが,本体付属の高校生用辞書に満足できない人が「リーダーズ英和辞典」などの別売りソフトを買おうとしても,10000円近くしますので,そう簡単に買い足せるものでもありませんでした。10000円出してリーダーズの電子ブック版を買っても,画面が小さいので何回もスクロールしないといけないし,電源を入れて10秒近く待たされるぐらいなら,紙のリーダーズを引いた方が快適だった,というのがユーザの本音だと思います。
DD-1の最大の短所は,狭い液晶画面(それでも当時の電子手帳等にくらべればはるかに大きいのですが)に伴う見にくさと,アルカリの単3電池4本がわずか2時間ちょっとでなくなってしまうので,ACアダプターを常に持ち歩かないといけないという機動性の悪さでした。電子ブックはあくまでも「ブック」なので,次にお話しするTR-700などと異なり,冊子体の辞書の内容がそのまま画面に表示されてしまいます。例文や文法記述などを別表示することなどは不可能なので,小さい液晶画面であることもあり,とても見にくいものでした。電源を入れてから使えるようになるまでかなり待たされるのも電子ブックプレーヤー特有で,いくらフルコンテンツの辞書が引けるといっても,これは使えない,と感じた人は多かったのではないでしょうか。
DD-1のスペックや,電子ブックという発想は非常にユニークだったのですが,かんじんのソフトが少なく,高価だったということがDD-1の足を引っ張ってしまったと言えます。そして,翌年にDD-1の問題点を改善したフルコンテンツIC辞書(TR-700)が登場したこともあり,電子ブックプレーヤーはだんだん影が薄くなっていきますが,1996年になって,リーダーズ英和・リーダーズプラスと和英中辞典を1枚の電子ブックに収録し,当時のIC辞書をしのぐほどの大画面液晶の採用,電池寿命も14時間と大幅に省電力化したDD-95が登場し,勢いを盛り返しました。残念ながら,IC辞書のシェアには及ばないようですが,それでも,最近は電子ブックソフトの数も大幅に増え,IC辞書に収録されていないようなマニアックな辞書(英和活用大辞典など)が使えることもあり,通訳や翻訳者といったプロの間では,IC辞書をはるかにしのぐ人気があります。
電子辞書の第三世代:フルコンテンツIC辞書の登場
電字林の発売から4年後,電子ブックプレーヤーが発売された翌年の1991年になって,現在の主流である「冊子体の辞書を丸ごと収録したタイプ(フルコンテンツタイプ)」の第三世代IC電子辞書が登場します。研究社の新英和・和英中辞典とRogetの類語辞典の本文をまるごと収録した,セイコー電子工業(現セイコーインスツルメンツ)のTR-700(右の写真)です。TR-700はかなり売れたそうですが,もしかしたらDD-1が携帯用フルコンテンツ電子辞書としては使い物になりにくいスペックであったことも一因かもしれません。TR-700では,DD-1の短所(画面の一覧性の悪さ,電池寿命,電源オンですぐ使えないことなど)が改善されていて,しかも値段も安いので,「使える電子辞書」の登場を心待ちにしていた英語のプロ達が一斉にTR-700に飛びついたのでしょう。たしかに,TR-700はIC辞書ですから,電子ブックプレーヤーのように,メディア交換するだけで複数タイトルの辞書を引くことができない,という大きなデメリットはありますが,前述したように,電子ブックのソフトが少なく,値段も高かった当時は,そのようなメリットの恩恵もあまりなかったので,TR-700でも問題なし,と判断したユーザが多かったのでしょう。
冊子体の辞書の内容を丸ごと収録すれば,当然表示される情報量も増え,限られた液晶画面では見にくくなります。そこで,TR-700では,冊子体辞書の内容を「例文」「解説」「それ以外」の大きく3つに分け,最初は「それ以外」の内容(すなわち,発音記号や語義などのみ)を表示し,キー操作により,例文や解説を表示する,という方式がとられました。DD-1にはなかった特徴です。
このように,まず訳語や発音が表示され,必要であれば例文キーで例文が表示されるというスタイルの採用は,情報量と見やすさを両立させた非常に画期的な方法であり,電子辞書の歴史の中でも最もエポックメイキングな出来事であったといっても過言ではありません。このことは,他社製品を含め,以後発売されたフルコンテンツ辞書のほとんどの機種に同様の操作系が採用されていることからも明らかでしょう。当時,すでに電子ブックプレーヤーが発売されており,研究社の英和・和英中辞典は電子ブック版も出ていましたが,TR-700とそれほど変わらないサイズの画面に,例文も解説も全部一緒に出てくるので非常に見にくかったことを覚えています。※ちなみに,上の写真は,発売当時のパンフレットをスキャンしたものですが,このパンフレットは,18ページにわたってTR-700のみを紹介しています。たった1機種のために18ページものパンフレットを用意したことからしても,セイコーインスツルメンツのTR-700に対する期待がうかがえます。
以降,IC辞書の主力はフルコンテンツタイプに徐々に移行していきます。しかし,先ほどふれたように,訳語のみを表示する「第二世代電子辞書」も,小型軽量化,低価格化され,高校生や一般の英語ユーザーを対象にした「安くて小さい電子辞書」として,現在でもフルコンテンツ辞書と平行して発売されています。紙の辞書でさえ,英語を専門としない人の多くは単に語の意味を知るだけに使っていることからしても,電子辞書はユーザの目的に応じて,フルコンテンツタイプと非フルコンテンツタイプの2種類に分化してきていると言えます。
電子辞書の第四世代:より高機能に,より小型軽量に
TR-700以降,フルコンテンツタイプの電子辞書は,サイズや価格の変更,国語辞典のバンドリングや大液晶画面の採用など,マイナーチェンジを繰り返してはいましたが,基本的な性能は他社の機種を含め,TR-700とそれほど変わりませんでした。そのような中,今までの製品とは一線を画するようなスペックを持ったSR-8000(セイコーインスツルメンツ)が1999年12月に発売されました。セイコーの電子辞書は液晶画面が他社の製品にくらべて小さいのがネックだったのですが,SR-8000は,当時(現在もですが)最も解像度の高い液晶画面を採用していたカシオのXDシリーズとほぼ同等の液晶画面を搭載しました。ただ画面が大きいだけでなく,大画面を生かした二画面表示やスーパープレビューなど,他機種には見られない機能を多数備え,その先進性は今でも失われていません。他機種の二番煎じではなく,ユーザの声などを参考にしながらゼロから開発したことがうかがえ,電子辞書の老舗としての意地が感じられます。
一方,他社は,SR-8000のように先進的な機能を搭載することには消極的なようで,むしろ従来機種と同等のスペックを保ちながら,より小さく,より軽く,より情報量を多くすることに力を入れています。英和,和英,広辞苑といった定番辞書に加え,カタカナ語辞典やことわざ辞典など,合計8冊の辞書を収録したPW-8000(シャープ)や,フルコンテンツであるのに名刺ケースサイズを実現したDD-ICシリーズ(ソニー)などがその例です。
これからの電子辞書−小型軽量モデルと高機能,高情報モデルの二極分化へ?−
今までは,IC辞書といえば,高価で,大きく,重いけれども,冊子体の辞書の内容を丸ごと収録した「フルコンテンツタイプ」と,安く,小さく,軽いけれども,語数が少なく,例文などもカットされている「単語翻訳機タイプ」の2種にわけられていました。フルコンテンツの機種は魅力的だけど,高いし,かさばるから,という理由で敬遠していたユーザも多かったと思います。しかし,DD-ICシリーズ(ソニー)などは,値段はともかく,大きさと重さの点では,単語翻訳機タイプと大差はありません。ということは,「フルコンテンツよりも小型軽量」をウリにしてきた単語翻訳機タイプの辞書の存在価値が怪しくなってきたとさえ言えるわけです。
もっとも,現時点では,大きさや重さはともかく,値段の差は歴然としています。フルコンテンツタイプの電子辞書は,安いものでも1万数千円はしますが,単語翻訳機タイプの電子辞書なら,ほとんどのものが数千円,自由文発音機能などがついた,ハイエンドのものでも1万円前後で買えます。現時点では,まだまだ「安いから」という理由で,単語翻訳機タイプの機種も売れることでしょう。しかし,その価格差は,今後急速に縮まっていくはずです。これからの電子辞書は,フルコンテンツタイプが基本となり,DD-ICシリーズ(ソニー)に代表されるような,学生等,一般のユーザを対象にした,従来の電子辞書とほぼ同じスペックであるが,より小型軽量化され,安価になったモデルと,SR-8000(セイコーインスツルメンツ)のように,専門家を主な対象にした,より高機能で情報量(収録辞書の数など)の多いモデルへの二極分化が進むのではないでしょうか。
(付)歴史に残る? 電子辞書※「電子辞書へのアプローチ」の旧年度版に掲載した機種の中で,私自身が気に入っているものに加筆して再掲しました。いずれも現在は生産完了になっている製品なので,電器店等では売っていません。また,入手方法も私は分かりませんが,もしかしたらYahoo等のネットオークションで手に入るかもしれません。
PW-5000 (シャープ)
IQ-3000以来,電子辞書業界の中では沈黙を続けてきた? シャープが1997年に発売したフルコンテンツ電子辞書です。当時,IC電子辞書は研究社の英和・和英を収録したセイコーインスツルメンツの独占状態でしたが,英語を専門とする人には新英和,和英よりも人気の高い,ジーニアス英和辞典(大修館書店)とプログレッシブ和英辞典(小学館)に加え,英語類語使い分け辞典(創拓社),TOEIC基礎2400語(語研)の本文すべて(文字情報のみ)を収録しています。操作は,他機種と異なり,画面上に現れるキーを付属のペンでタッチすることによって行います。そのため,他の電子辞書のようなキーボードはありません。これは好みの分かれるところですが,経験上,キーボードがない機種のほうが,満員電車の中や授業中に使っていても違和感がないようです。また,キーボードがないぶん,他機種にくらべて表示画面が大きく,小型軽量であることは大きなメリットでしょう。画面も,液晶で定評のあるシャープだけに非常に見やすく,長時間使っていても目が疲れません。SR-8000やカシオのXDシリーズのような大画面液晶を見慣れてしまうと大した大きさではありませんが,それでも当時としては最高の解像度だったと思います。
PW-5000のような,ジーニアス英和とプログレッシブ和英の組み合わせは,他機種ではまったく見られなかったもので,高校生はもちろん,英語を専門にしている人にとっても大変重宝したのですが,ジーニアス和英辞典が発売されたこともあり,最近の機種では英和,和英とも「ジーニアス」に統一されてしまいました。複数出版社の辞書をバンドルするのは,版権の問題もあるのかもしれませんが,これは大きな改悪であると言わざるをえません。「ジーニアス和英辞典」のハイブリッド方式(和英辞典の記述の中に,(ジーニアス)英和辞典の内容が抜粋されて入っている)という一大特徴は,冊子体辞書であるからこそ発揮されるものであり,ジャンプ機能で同等のことができる電子辞書の世界では何の意味もなさないのですから。PW-5000では,いわばハイブリッド編集の「プログレッシブ和英辞典」を使えたことを思うと,残念です。
TR-9700 (セイコー電子工業)
研究社の新英和(第6版),新和英(第4版)中辞典,広辞苑(第4版)の本文すべてと,Rogetの類義語辞書を収録しています。クラムシェルタイプ(本体の上半分に液晶画面,下半分にキーボードがあり,真ん中で折り畳める)の本体は,液晶画面の保護も兼ねており,大画面液晶を実装できることもあり,他社を含め,現行フルコンテンツ辞書のデザインの基礎になったとも言えるものです。他社に先駆けて広辞苑がフル収録されていたこともあり,当時はかなり売れたそうです。
TR-6700 (セイコー電子工業)
研究社のカレッジライトハウス英和・和英とRogetの類義語辞書を搭載したモデルです。英和のほうは,新英和中辞典などよりはるかに収録語数が少ないですが,和英は訳語の区別や文化的差違などを丁寧に説明するなど,非常に斬新な内容で,英語を書く機会が多い人にはジーニアス和英や研究社の新和英中辞典より役に立ちます。ライトハウスシリーズの電子辞書版は,この機種しかありませんし,ライトハウスは,高校生用辞書としてはジーニアスよりも人気があるはずなのですが,思ったより短命でした。ほぼ同時期に発売されたTR-9700は,後継機のSR-900が発売されているのですが…。やはり,電子辞書は語数の多い辞書をバンドルしたもののほうがユーザには受けるのでしょうか?
LM-6000 (Franklin)
アメリカ製電子英英辞書の決定版です。12種類の単語ゲームや類語辞書,合成音声による発音機能,パターン検索など,非常に多機能(ただし,辞書はフルコンテンツではありません)ですが,日本製のIC辞書に比べて操作が直感的で,誰でも簡単に使いこなせるのが特徴です。Franklin社は,IC辞書開発の歴史が長いこともあり,豊富な機能はもとより,使ってみないと分からないような細かな点の操作性の良さは,日本製のIC辞書にも見習ってほしいところでしょう。発売後10年たちますが,いまだに古さを感じさせず,私も気に入っています。以前は丸善でも輸入販売されていましたが,英英辞書ということもあり,日本ではあまり売れなかったためか,最近は見かけません。
WP-6500 (セイコー電子工業)
当時は業界随一のIC辞書版学習英英辞典で,Longman Dictionary of Contemporary English (第2版)の本文すべてを収録していました。英英辞書であるのに,TR-9700のような,日本語を表示する機種とほぼ同じ画面サイズを採用しているので,表示文字数が多く,一覧性が高くなっています。日本のIC辞書では珍しい全文検索(速度が遅すぎてちょっと使いものになりませんが)や単語テスト機能,自分で定義を書き込めるパーソナルディクショナリー機能など,ユニークな機能も満載しています。統制語彙による分かりやすい定義や豊富な例文,きめ細かな文法,語法表記など,使いこなせば英和辞典よりも得るものが多く,LDCEを冊子体のころから常用している私にとっては手放せない電子辞書の一つでした。しかし,英和辞典さえまともに使いこなせない学習者の多い日本では,LM-6000同様,あまり受け入れられなかった(のかどうか知りませんが)ためか,非常に短命でした。
もっとも,LDCEの第3版を搭載したSR-8000が大人気であることを考えると,WP-6500は英英のみで,英和がついていないということが致命的だったのかもしれません。SR-8000のように,英和・和英に加えて英英が搭載されていれば,多少高くてもとくにハイレベルのユーザは購入するのでしょうが,英英だけしかついていない機種に何万円も払うのはちょっと,ということなのでしょう。
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