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英語・英文学*研究とコンピュータ活用

〜コンピュータを,コンピュータとして使うために〜

博士後期課程2年(当時)関山 健治

(E-mail: sekiyama.kenji@nifty.ne.jp)

注:このハンドアウトは,愛知淑徳大学の院生研究発表会にて行ったワークショップの際に配布したものです。ワークショップはOHP併用で行われたため,特に第二部の内容は,このハンドアウトだけでは把握しづらいと思います。ご了承ください。なお,OHPシートの内容を印刷した紙のハンドアウトもありますので,ご希望の方はメールください。

1. はじめに

Windows 95やインターネットの普及にともない,パソコンへの関心も日ごとに高まっています。ほんの数年前までは,パソコンは,仕事で必要なビジネスマンや,ごく一部のマニアが孤独に使うもの,という「暗い」イメージがありましたが,最近ではインターネットで買い物をしたり,電子メールを友人とやりとりしたりといった,まったくの趣味でパソコンを使っている人たちも増えてきました。町中のパソコンショップでも,近年はカップルで来て品定めをしている光景をよく見かけます。パソコンが日常生活にまで入りこんできていることが,ここからもうかがえます。

しかしながら,ここまでパソコンが普及したにもかかわらず,パソコンで何をするかという根本的な問題にはあまり目が向けられていないのが現状です。仕事で使っている人の大半は,もっぱらワープロや表計算,データベースなどの「道具」としてパソコンを使っていますし,趣味でパソコンを使っている人なら,パソコン通信やインターネット,電子メールの端末として使うのが一般的でしょう。もちろん,パソコンを掃除機や洗濯機,電子レンジなどの家電製品と同列に位置づけるのなら,このように日常生活に密着した用途で使うのも自然なことでしょう。でも,そのためだけに数十万円もするパソコンを買い求めるのは,あまりにももったいないのではないでしょうか。

ワープロとして使うだけなら,ワープロ専用機のほうが明らかに使いやすいですし,値段も安く,信頼性もあります。表計算や住所録程度のデータベースなら,ワープロ専用機にだってパソコン顔負けのソフトが付属しています。最近のワープロ専用機なら,モデムを内蔵し,インターネットに接続できるものさえ珍しくはありません。しかも,パソコンに比べてマニュアルが非常に分かりやすく,操作を説明するビデオさえ付属しているものが大半です。

それでも,昔に比べれば,最近のパソコンは使いやすくなったと言われます。確かに,15年前のパソコンで,BASICや機械語のようなプログラム言語を学び,必要なソフトを自分で作ったり,10年前のパソコンで,MS-DOSのコマンドを覚えて,ワープロや表計算ソフトを使ったりしていた(私のような)者にとっては,マウスでクリックするだけでワープロが使える今のパソコンは,非常に簡単で,使いやすいといえます。しかし,今,はじめてパソコンを使う,という人にとっては,Windows / Macintoshの区別なく,まだまだ敷居が高いのが現状です。

2年前にWindows 95が登場したときは,「誰でも簡単にパソコンが使える」というふれこみで,パソコンどころか,ワープロさえ使ったことないオジサンまでもがWindowsにとびつきました。マウス操作で,絵記号(アイコン)をベースにしたWindows 95やMacintoshの操作系は,一見簡単そうに見えるのですが,何か予想外のトラブルが起こった途端にどうすればよいか途方に暮れるというのが,初心者,熟練者を問わず,パソコンユーザーの現状でしょう。操作が簡単になったと思うのは見かけだけで,やはりコンピュータは難しいのです。WindowsやMac OSの操作系は一種の糖衣錠のようなもので,苦くてとても飲めない「コンピュータ」のまわりを,甘く味付けして飲みやすくしただけのことです。あの臭い「元祖」正露丸でも,糖衣錠のものでも,所詮薬は薬です。キャンデーのように飲めるものではありません。

話がそれましたが,このように,まだまだ使いにくい,高価で,発展途上のパソコンをあえて使うからには,ワープロ専用機に真似できない,パソコンならではの使い方をしてみたいものです。それを,このワークショップで考えていきたいと思います。

ワークショップは二部構成になっています。第1部では,手近にあるソフトを使いこなすことにより,英語,英文学の研究に役立てるという観点から,CD-ROM(英英)辞書ソフトの一歩進んだ活用法を考えます。辞書は単語の意味を調べるもの,という常識からは考えもつかないような意外な使い方が見いだせれば幸いです。

第2部は,応用編として,言語学の分野で最近脚光を浴びているコーパス(corpus)の,パソコンでの活用に関してみていきます。Corpus linguisticsのイントロダクションといった感じですが,参加者の皆さんの多くが文学や応用言語学を専門にされているという状況をふまえ,具体的な研究事例というよりは,コーパスで何ができるか,という技術論的な側面を中心にとりあげます。これを通じて,コーパスは,決して語法研究や辞書編纂に携わるごく一部の研究者のものではなく,文学や現場での語学教育に携わる人にとっても有益なツールであるということが,お分かりいただけるかと思います。なお,第1部,第2部のいずれの事例も,今使っているパソコンで,今日の夜からでも活用できることをめざしていますので,最新スペックの高価なパソコンは,まったく必要ありません。Windows 95の前のバージョンであるWindows 3.1しか動かないパソコンでも大丈夫です。

2. CD-ROM版辞書ソフトをフル活用する(第1部)

2-1 紙の辞書とCD-ROM辞書の違い

CD-ROMは,1枚でフロッピーディスク約700枚分(400字詰め原稿用紙に換算すると約875,000枚)もの情報を記憶できる媒体です。あのOEDでさえ1枚のCD-ROMにおさまってしまうのですから,通常の英和,和英中辞典やカレッジ版の英英辞典程度ならかなり余裕があります。そのため,文字情報に加えてカラー図版や動画などの図形情報,鳥の鳴き声や国歌,発音などの音声情報も収録し,とかく無味乾燥になりがちな辞書を引くという作業を楽しんで行えるような辞書ソフトが数多く発売されています。数年前までは,CD-ROMドライブが非常に高価だったこともあり,一般にはあまり知られていなかったCD-ROM辞書ですが,最近では新しく出版される中型,大型辞書(とくに欧米の)の多くは,冊子体のものとCD-ROM版の両方を発売しています。これに伴って値段も安くなり,OEDのように,冊子体辞書の約10分の1でCD-ROM版が手に入るというケースも出てきました。

しかし,これらのCD-ROM辞書を使っている人の中で,その豊富な検索機能をフルに使いこなしている人は,一体どれくらいいるのでしょうか。CD-ROM辞書が紙の辞書と決定的に違う点は,辞書の情報をあらゆる角度から眺めることができるという点です。CD-ROM辞書を使いこなせば,紙の辞書では調べられなかったような事柄も,簡単に解決します。本来,これこそがCD-ROM辞書の醍醐味であるのですが,ほとんどの人は,図版や音声,動画情報といった表面的なものに目を奪われ,単なる紙の辞書の代用品としてしかCD-ROM辞書を使っていないのが現状です。

ここでは,具体的な事例をあげながら,CD-ROM辞書の豊富な検索機能を中心に紹介します。もともと,辞書を引くという作業は単調で,面白くも何ともないものですが,ここで紹介する検索方法は,辞書の情報を異なった角度から眺めるという,CD-ROM辞書の特色を最大限に生かしているので,今まで思いもつかなかったような新たな発見が,毎回のように生まれることでしょう。それらの発見を通して,辞書をひく楽しさ,英語ということばの面白さ,そして,そんな英語を学び,研究していることの喜びや誇りが,1枚のCD-ROM辞書を通して感じとれるのではないかと思います。

なお,ここで使うCD-ROM辞書は,Random House Webster's Unabridged Electronic Dictionary(小学館「ランダムハウス英和大辞典 第2版」の原典をCD-ROM化したもの,以下RHD2)ですが,その他の大半のCD-ROM辞書にも同様の機能は備わっています。CD-ROM版の辞書ソフトは意外と安く,カレッジ版の英英辞書なら数千円ですし,もっとも高価なOEDのCD-ROM版でも,60,000円前後で手に入ります。

2-2 CD-ROM辞書ならではの検索例 (1) 〜意味から綴りをひく〜

 紙の辞書は,語頭からのアルファベット順で単語が並んでいます。そのため,冊子体の辞書は,調べる単語の綴りは知っているのに意味が分からない場合には使えますが,それ以外の使い方は(事実上)できません。

しかし,CD-ROM辞書の場合,紙の辞書と同等の検索に加え,逆に,意味は知っているが綴りが思い出せないときに引くこともできます(語義内検索)。これは使いこなすと大変便利で,thesaurusのかわりにもなりますし,度忘れした単語を思い出したりすることもできます。

たとえば,vegetableという単語で語義内検索をすれば,vegetableという語が語義(意味)の中に含まれる単語をすべてリストアップしてくれます。この中には,asparagus, broccoli, cabbage, cauliflowerといった様々な野菜そのものを表す単語はもちろん,野菜への害虫であるaphid(アリマキ)や(野菜などの)皮をむく,という意味からpeel,(野菜などの)生ゴミを意味するgarbageなども含まれます。このように,CD-ROM辞書の語義内検索機能を用いれば,私たちの頭からは想像もつかないような語までピックアップしてくれます。そのため,brainstormingには最適ですし,語学教師にとっては,単語を主題別に抽出した語彙リストなどの教材を作成する際に重宝するでしょう。文学を学んでいる人なら,ある単語から連想される語句を調べる際などに使えますし,OEDのCD-ROM版など,文学作品からの引用例文の多い辞書ソフトで語義内検索を行えば,ある特定の作家や作品の引用例文のみをまとめて探し出すことができます。もちろん,研究という堅苦しい場面だけでなく,純粋に暇つぶしとして,思いつく単語をキーワードに入れて検索してみるのも面白いでしょう。意外な発見があるかもしれません。

語義内検索は,時として想像もつかないような語まで探し出すと言いましたが,これは見方をかえれば,当面自分が調べたい内容に関係ない語まで拾ってしまうので,能率が悪いとも言えます。そのような場合は,2語以上のキーワードを用いて,ANDというブール演算子(Boolean operator)で関連づけることによって,検索対象をより絞り込み,効率のよい検索ができます。逆に,さらに検索対象を広げたいときは,ORという演算子を用いることによって,より幅広い検索も可能です。このような機能は,(欧米で発売されている)CD-ROM辞書ソフトには,まず100%備わっていますが,日本人で使いこなしている人はまだまだ少ないのが残念です。論理学を学んだ人や,コンピュータでプログラムを組んだことのある人にはおなじみのBoolean operatorですが,私たちのような文科系の人にとっても,慣れてしまえば決して難解なものではありません。

Boolean operatorには,今あげた論理積(AND),論理和(OR)のほかに,否定(NOT)などがあります。名前はともかく,下の表を参考に,各演算子の働きを実例とともに覚えてください。

 
 
演算子
意味
例(解釈)
検索結果(抜粋)
AND
xとyの両方を含む
freelance AND photographer

(フリーのカメラマン)

paparazzo
OR
xとyのいずれかを含む
vegetable OR fruit

(野菜か果物)

acerola, apple, apricot, broccoli…
NOT
xを含むがyは含まない
snake NOT venomous

(無毒のヘビ)

anaconda, constrictor, green snake…

表1: キーワードを関連づけるブール演算子(Boolean Operator)とその使用例

たとえば,Diana妃が事故で亡くなった際の報道で,盛んに「パパラッチ」という単語が使われましたが,この単語はどう綴るのでしょうか? パパラッチはphotographerの一種なので,語義内検索でphotographerのみをキーワードにしても探せます。しかし,固有名詞を豊富に収録しているRHD2の場合は,何十人もの写真家の固有名詞までいっしょに検索されてしまい,探すのが大変です(図版の画面1)。そこで,「パパラッチ」=「フリーのカメラマン」と考えて,freelanceとphotographerの両方を語義に含む単語を検索すれば,さらに絞り込んだ(specified)検索ができます。そのような場合はBoolean operatorのANDを用い,freelance AND photographerをキーワードにすれば,見事にpaparazzoのみが検索されてきます(図版の画面2)。

もっとも,皆さんの中には,こんな小難しいことをしなくても,適当にスペルを推測して普通の英和辞典を引いたりしたほうが簡単ではないか,と思われる人もいるかもしれません。確かに,paparazziの場合は,発音と綴りにそれほど違いが見られませんので,当てずっぽうで普通の英和辞典にあたることもできるでしょう。しかし,「イッテルビウム」や「アクチニウム」といった,聞いたこともない(放射性の)元素名の綴りを知りたいときなどは,語義内検索機能が本領を発揮するでしょう。「和英辞書を引けばいいではないか」ですって? それでは,試しに手元にある和英辞典を引いてみてください。意外と載っていないものです。

 

2-3 CD-ROM辞書ならではの検索例(2) 〜綴りの断片からひく〜

 今お話しした,語義内検索機能と並び,CD-ROM辞書の大きな特徴として,正確な綴りがわからなくても辞書が引けるということがあげられます。これは,パターン検索,ワイルドカード検索とよばれるもので,次の2つの特殊な記号(ワイルドカード)を用いて行います。

具体的には,クロスワードパズルを解く際やスクラブル(Scrabble)の攻略用に重宝しますし,音韻論,形態論,英語史などの研究者が,ある特定の綴り字パターンを持つ単語を知りたいときなどにも役立つでしょう。 

 
記号
意味
例の意味(検索結果)
任意の1文字
?g??s??c
8文字の単語で,2文字目がg,5文字目がs,8文字目がcの単語

(agnostic, agrestic, egoistic…)

任意のn文字

(n≧0)

*person
personで終わる単語

(person, adperson, chairperson, first person…)

person*
personで始まる単語

(person, personal, personal computer…)

per*tion
perで始まり,tionで終わる単語

(perception, perfection…)

*person*
personがどこかに含まれる単語

(person, personal, chairperson, supersonic…)

*?person?*
personが語の途中で使われている単語

(chairpersonship, supersonic, impersonal…)

person, personal, chairpersonなどが該当しない点に注意。

表2: ワイルドカードとその使用例

3. パーソナル・コーパスのすすめ(第2部)

3-1 コーパスとは?

コーパスというと何やら難しそうに聞こえるかもしれません。私も,以前からLongmanやCollins COBUILDの学習英英辞典の編集にコーパスが活用されていることは知っていましたが,辞書会社が社運をかけて構築しているものなのだから,私など一般の人には無縁なもので,しかもパソコンで使うのは不可能であると思っていました。しかし,コーパスといっても大小さまざまなものがあり,個人で蓄積した小規模なものであっても,使い方次第では日々の研究活動にも十分役に立つものであると思います。とくに最近では,高度な機能を備えたコーパス検索ソフトが,インターネットなどから無料で手に入ります。これを最大限に使いこなせば,Bank of EnglishやBritish National Corpusなどの商用コーパスとほぼ同レベルの検索が,普通のパソコン上でも行えます。

コーパスの原理自体は非常に単純です。単に,一定量の様々なテクスト(言語材料)を,テキストファイル形式でハードディスクなどの記憶装置に保存しておき,必要なときに検索できる態勢にしておくだけです。もちろん,言語事実の検証などの用途でコーパスを用いる以上は,信頼性を高めるために,ある程度新しい時期に書かれたテクストを収集する必要がありますし,イギリス英語か,アメリカ英語かといった地域的な差異や,科学論文のように堅い文体のものか,親しい人への手紙のようなくだけた文章かといったスピーチレベルの問題など,様々な要因を考慮にいれて,バランスよく構築しなければなりません。

こういったコーパス構築の方法論は大変重要なことですが,時間の関係で今回は割愛し,実際にコーパスを使って何ができるか,また,それがどのように私たちの研究に役立つかということを中心にお話しします。コーパスでできることは,大きく分けて「探す」,「整理する」の2種類に分かれますが,それぞれについて次にみていきましょう。

3-2 コーパスの機能(1):「探す」

「探す」機能は,コーパス活用のもっとも基本となるもので,蓄積されたテクストの中から,ある特定の語句や文章を含んだものを探しだし,表示するものです。もっとも,これだけなら,とくにコーパス用の検索ソフトをとくに使わなくても,ワープロソフトなどについている文字列検索機能を使ってもまったく同じことができます。しかし,コーパス用の検索ソフトは,ワープロの文字列検索などとは比べものにならないほど速く,ごく普通のパソコンでも,旧約聖書1冊分程度のテクストなら,わずか数秒で全体を検索してくれます。図版の画面5のように,検索語句を中央に揃えて,その前後を表示するKWIC (Key Word In Context)形式で見やすく出力したリストが,「探す」機能の基本ですが,このリストだけでも,英語,英文学の研究材料としては無限の可能性を秘めています。

たとえば,文学を例にとってみましょう。文学を研究している人は,ある作品の中で,ある語句がどのような場所で使われているかを知る際に,コンコーダンス(concordance)という本を使うと思います。シェイクスピアや聖書をはじめ,コンコーダンスが出版されるような著名な作家,作品でしたら問題はありませんが,無名の作家や,現在活躍中の作家など,コンコーダンスがない場合はどうするのでしょうか? 従来なら,作品を読んだ後の印象にもとづき,その語句が比較的多く用いられている箇所を推測し,作品自体を読み返し,一語一句ゆるがせにしないで精査するぐらいしか方法はなかったのですが,作品のテクストをパソコンに保存し,コーパス検索ソフトで探し出せば,あっという間に独自のコンコーダンスができあがります。最近ではイメージスキャナーが安くなってきているので,これを使って紙のテクストをデジタル化することもできますし,アメリカのイリノイ・ベネディクティン大学のProject GutenbergというWWWサイトなどからは,古今東西の文学作品をはじめとした膨大なテクストが簡単にダウンロードできます。いずれにしても,作品を一から読み返す手間が省けるぶん,利用価値は高いでしょう。

言語学,とくに,文法や語法を専攻している人にとっては,疑問の生じた点をコーパスで検索することにより,実証的に確認することができますし,ある語句や構文がどの程度使われているかといった数量的研究や,KWIC出力を生かして,ある語句,構文が用いられる前後の文脈(context)を調べるなど,ただ検索結果を羅列しただけのリストから,様々な方向で研究が進むことでしょう。もちろん,本格的になれば,商用コーパスに頼らざるをえないでしょうが,個人が蓄積したコーパスでも,自分の論証を補助的に裏付けるといった用途なら十分使えます。

語学教師の場合なら,生徒から受けた文法,語法上の質問に答える際や,テスト問題を作成していて例文が必要な場合などに,コーパスは重宝します。もちろん,手近にALTなどのネイティブ・スピーカーがいれば申し分ないのですが,24時間年中無休で,しかも何回聞いても嫌な顔一つしないコーパスの存在は大変貴重でしょう。

3-3 コーパスの機能(2):「整理する」

コーパスのもう一つの代表的な機能が「整理する」機能で,あるキーワードをコーパスの中から探した後に,その結果をまとめ,数値化したり図式化したりする機能です。具体的には,ある単語の周囲にはどのような単語が現れやすいかを数値で示したり(図版の画面6)視覚的に示したり(図版の画面7)といったものですが,ただ検索した結果をKWIC形式でリストアップしただけでは気づかなかったような傾向が現れることもあり,とくに語法研究や辞書編纂に携わっている人には貴重なデータとなるでしょう。しかし,いきなりこのようなデータを見せられても,これが何を意味するのか,どう読みとるのか戸惑うでしょうから,簡単にそれぞれのリストの見方をお話しします。いずれのリストも,私の手元のコーパス(約200万語)からgrowという単語を検索し,整理したものです。

まず,画面6のような数値で表されたリストのほうからみてみましょう。最初に,リストをタテにみていきます。左のほうにTHE, AND, TO, OF, IN, UP…という単語の列がありますが,これは,検索語であるgrowと結びつきやすい(共起しやすい)語を,その順に並べたものです。具体的には,growという単語の(ここでは)前後各5語以内(検索ソフトの設定を変更すれば,5語に限らず,任意の語数を選べます)に現れた単語を,多い順に並べたものです。単語のすぐとなりにある47, 36, 29, 23…という数字は,その単語の出現回数を表します。これだけでも,growという単語と結びつきやすい前置詞の傾向などが読みとれると思います。

つぎに,ヨコにリストをみていきます。たとえば,先頭のTHEの列をみていきましょう。THEの隣の47という数字は,growという単語の周囲でtheという語が現れた回数を表していることは先にふれましたが,その右側にある9, 3, 7, 4, 0, -, 2…という数値は何でしょうか? 勘のいい人はお分かりかと思いますが,これは,theの出現回数47回の内訳です。中央付近にある"-"が検索語growの位置を表し,その左右の数字は,growの1語前(後),2語前(後)…5語前(後)に,各列の単語(the, and, to…)が現れた回数を表します(もちろん,これらの数値を合計したものが,47, 36, 29…という数値になります)。たとえば,私のコーパスにおいて,theという語は,growの直後では2回現れているが,直前ではまったく現れていないということが分かります。もっと分かりやすい例で言うと,上から6列目のupの場合,growの近辺に現れた回数16回のうち14回がgrowの直後に出ています。すなわち,grow upという連結が,実際のコーパスにも反映されているということが,ここからも明らかになります。

つぎに,画面7のように単語で表されたリストを見ていきましょう。これは,画面6と同じ結果を別の方法で表したものです。このリストは,タテにみていくのが基本です。たとえば,growの右隣の列の単語をタテにみていくと,up, in, and, the, out, as…となりますが,これは,growの直後に現れた単語を,出現回数の多い順に上からタテに並べたものです。すなわち,growの直後ではupがもっとも多く生起し,以下,in, and, the…の順に続くということです。同様に,もっとも左側の列のthe, and, of…は,growの5語前に現れた単語でもっとも回数が多いのがtheで,以下,and, of…の順であるということを示しています。

このような抽象的なリストは,慣れるまでは戸惑うものですが,何回も使っていくうちに,ただある単語を探しだし,KWIC形式で並べただけではまったく気づかなかったような文法上,語法上の特徴がみえてくるでしょう。私は語法研究が専門ではありませんので,このような結果をどう解釈するかというところまではお話しできませんが,後は個々の研究者の腕の見せどころと言えるのではないでしょうか。これこそが,今言語学の中でも脚光を浴びているcorpus linguisticsのめざすところで,今までのような個人の直感に頼っていた語法研究や辞書編纂に新しい1ページを切り開く可能性を秘めています。

長々とデータの読み方をお話ししましたが,これらはいずれも言語学を専攻している人にとっては興味深いかもしれませんが,文学に携わっておられる方はあまりピンとこなかったかもしれません。そこで,最後に,画面6や7とはちょっと違った観点でコーパスの検索結果を整理した例を紹介します。これは,ある単語が,1つのテクストの中で用いられている相対的な位置を示すもの(図版の画面8)であり,とくに文学や文体論の研究に携わっている人にとって有益な資料を提供すると思います。

画面8は,私の手元のコーパスでgloryという単語を検索したものです。もっとも左側の英字は,コーパスのファイル名(D2, F2はBrown Corpusという,一世を風靡した市販のコーパス, IHAVEADRはキング牧師のスピーチ,NEWBIBLE, OLDBIBLEは新約,旧約聖書(KJV),TESSはHardyの小説Tess of the D'Urbervilles),その右側にあるバーコードのような棒が各テクストの中でgloryという語が現れた位置(1本の細い棒が1回の出現を表し,棒が太くなっているところは,かたまって現れていることを示す)を表しています。各テクストは,当然のことながら長さが千差万別ですが,ここでは,棒の長さをすべて一定にしているので,相対的な出現位置(冒頭のほうか,最後のほうか)をテクストごとに比較することができます。たとえば,聖書の場合,全体的に後半部分にgloryが集中して現れる傾向がみられます。人類の堕落を神が救済するという聖書のストーリー展開から考えても,gloryという語が後半に多く現れると考えられるでしょう。

私は文学が専門ではないので,コーパスを用いてこのような結果を出すことが,文学の研究上どのような意義があるのか(ないのか)といったことは分かりませんが,ほんの10年前なら,1人の学者がライフワークとして行っていたコンコーダンス作成や,特定の語の出現位置の検索が,今ではパソコンを用いれば数秒でできるのですから,1人でも多くの研究者の方がコーパスに親しみ,活用することによって,従来では考えもつかなかったような研究や新解釈が多数生まれてくることと確信します。

4. まとめ

第1部,第2部を通して,研究のためのパソコン利用という視点から,市販のパソコン雑誌などでは扱われていないような事例に焦点をあてて,お話ししてきました。もちろん,私はパソコンをワープロやインターネット端末といった,家電製品的に使うことを否定するつもりはまったくありません。事実,私自身も,ワープロソフトでこの資料を作っている今現在を含め,パソコンを使う時間の大半はワープロや電子メール,WWWといった用途に使っています。しかし,それにくわえて,パソコンにはまだまだ未開拓の,多くの可能性があるものだ,ということが,このワークショップを通しておわかりいただければ幸いです。

今後は,今まで以上にコンピュータが普及し,今の電卓のように,パソコンを1人1台持つという時代も間近でしょう。それにつれて,文学にせよ,言語学にせよ,研究の方法論にも大きな影響を及ぼすことは必至です。確かに,コンピュータによって,データを検索したり分析したりする労力は大幅に軽減されました。しかし,それは,数十年前の研究者にくらべて楽に研究ができるようになり,のんびりできるようになったという意味では決してありません。言語学の研究でも,従来は膨大なテクストを精読し,手作業でデータを分析し,数値化した(だけの)研究でも価値は非常に高かったのですが,このようなことがコンピュータの力を借りればいとも簡単に行える今では,単にデータを提示しただけでは見向きもされず,数値化した結果から何が言えるのか,何が導けるのかといった,さらに深いレベルの考察までもが求められてきています。

語弊があるかもしれませんが,データをこつこつと集め,地道に単純作業で分析するという従来型の作業は,暇と根気さえあれば学殖や才能に関係なく,誰でもできたものかもしれません。しかし,コンピュータ社会で求められている,集めたデータから何を言うか,何を導くかという能力は一朝一夕に得られるものではなく,日頃から時間を惜しむように関連の論文を貪欲に読んだり,国内各地や海外の研究仲間と日夜情報交換をしたり,学会でほかの研究者の発表を聞いたり,自分も発表してコメントをもらったりといった前向きな姿勢で研究に精進しない限り,一生かかっても身につかないかもしれません。それにくらべれば,パソコンの使い方を覚えるのは何て楽なんでしょうか!

ともあれ,コンピュータの普及は,大多数の人にとっては,仕事の労力が軽減されたり,速く仕事が行えるので,歓迎すべきことなのでしょうが,我々研究者にとっては,先にもふれたように,必ずしも手放しで喜べることではない,ということは,常に肝に銘じておく必要があるのではないでしょうか。コンピュータに使われないためにも…。